2023 Fiscal Year Research-status Report
マクロファージに着目したCIDPの病態解明と新規治療法の開発
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23K06926
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
小池 春樹 佐賀大学, 医学部, 教授 (80378174)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー / マクロファージ / 自己抗体 / 補体 / 神経生検 |
Outline of Annual Research Achievements |
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(chronic inflammatory demyelinating polyneuropathy: CIDP)では、マクロファージが髄鞘を貪食することによって生じる脱髄が病態において重要な役割を果たすと考えられてきた。一方、近年の免疫介在性ニューロパチー研究の分野においては自己抗体に関する研究が進み、例えばギラン・バレー症候群においてはGM1抗体をはじめとした、末梢神経系に存在するガングリオシドなどの糖脂質に対する自己抗体が病態に深く関わっていることが明らかになっている。しかしながら、これらの自己抗体は軸索型の病型との関連が強く、CIDPに類似したマクロファージによる脱髄像を特徴とする脱髄型の病型においては病態に関連した自己抗体は明らかになっていない。CIDPにおいても脱髄型のギラン・バレー症候と同様、既知の自己抗体が陰性の例が多く、マクロファージによる髄鞘貪食の機序は明らかになっていないが、末梢神経に発現している何らかの分子や、それに対する抗体または補体成分を標的としていることが想定される。 本研究ではCIDPにおけるマクロファージの果たす役割を明らかにするために、①臨床病理学的なスペクトラムの再検討、②マクロファージの行動様式・性質に関する超微形態学的・免疫組織化学的検討、③自己抗体とマクロファージの関係に関する検討、④モデルマウスによる検証、を行う。はじめに、マクロファージが規定する臨床病理学的特徴を明らかにするとともに、超微形態学・免疫学的手法によって、末梢神経組織においてマクロファージが髄鞘貪食を開始する際の標的を明らかにする。さらに、脱髄性ニューロパチーのモデル動物を用いてヒトと同様の超微形態学的・免疫組織化学的な検討を行い、ヒト組織でのマクロファージの行動様式と特徴を検証する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請者が2023年4月から在籍する佐賀大学神経内科、および以前に在籍していた名古屋大学神経内科に腓腹神経生検による診断目的でコンサルテーションのあったCIDP症例の病型、マクロファージの有無、治療反応性などを解析することによって、マクロファージが規定する臨床的特徴の意義を検討した。また、末梢神経組織におけるマクロファージの超微形態と行動様式を、電子顕微鏡を用いて観察した。この際に横断切片だけでなく縦断切片も使用することによって、マクロファージが髄鞘貪食のために有髄線維を囲む基底膜内に侵入する部位と、ランビエ絞輪部、傍絞輪部、傍絞輪近接部、および絞輪間部との位置関係を検討した。これによって、マクロファージによる髄鞘の貪食像はCIDPの主要な病型全てにおいて見られ、マクロファージが髄鞘貪食のために有髄線維を囲む基底膜内に侵入する部位が、ランビエ絞輪部や絞輪間部など、症例によって偏在していることを確認した。また、末梢神経微小血管内の単球が血管外に遊走する像を見出し、髄鞘を貪食するマクロファージは血液由来であることを明らかにした。このような形態学的な検討に加えて、髄鞘を貪食しているマクロファージの性質を明らかにするために、M1/M2マーカーやスカベンジャー受容体などの発現を免疫組織化学的な手法を用いて検討した。また、同様の検討は軸索変性をきたす血管炎や栄養欠乏などの患者から得た神経生検の検体についても行った。これらの結果を解析することによって、マクロファージが末梢神経を構成する特定の抗原、または抗原に対する自己抗体や補体を能動的に認識して髄鞘の貪食を開始するのか、それとも、軸索変性が生じた際の不要な組織を除去するスカベンジャーとしてのマクロファージと同様の機序で髄鞘を貪食しているのかについて検討した。
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Strategy for Future Research Activity |
CIDPの形態学的・免疫組織化学的な検討に関しては今後も継続していく。症例のリクルートに関しては、申請者が2023年4月から在籍する佐賀大学神経内科、および以前に在籍していた名古屋大学神経内科には、CIDPのみならず末梢神経疾患全般に関して多数の生検および剖検例の蓄積がある。また、佐賀大学神経内科では神経生検の依頼件数が増加しており、今後も新規の症例が多数加わることが予想されることから、さらに多数例での臨床病理学的なアプローチのみならず、マクロファージによる脱髄の有無や治療反応性も含めた前向きの臨床研究も可能となる。免疫組織化学的検討や免疫電顕に必要な光学および電子顕微鏡をはじめとする機器は佐賀大学神経内科の実験室および総合分析実験センターに設置されており、今後も本研究のために積極的に活用していく。これらの研究から得られた知見をもとに、マクロファージが何を認識して有髄線維を囲む基底膜内に侵入し、髄鞘の貪食を開始するのかを明らかにする。また、精製した患者IgG・IgMとマウスおよびヒトの各種神経組織を用いた免疫組織化学染色を行い、マーカーとなる既知の抗原との二重染色により、自己抗原の組織内分布とマクロファージの基底膜内への侵入部位との関係を解析し、候補となる標的抗原の絞り込みを行う。さらに、マウス坐骨神経の可溶化成分を用いて自己抗体が認識する蛋白質を同定する。また、脱髄性ニューロパチーのモデル動物である、experimental allergic neuritisを惹起したマウスとB7-2 KO non-obese diabeticマウスから得られた坐骨神経を用いて、同様の超微形態学的・免疫組織化学的検討を行い、ヒト組織で見られたマクロファージの行動様式と特徴を検証する。 以上のような計画遂行で、CIDPの病態を究明し新規治療法の開発へつなげることができると考える。
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Causes of Carryover |
a
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] Granuloma, vasculitis, and demyelination in sarcoid neuropathy2023
Author(s)
Mouri Naohiro、Koike Haruki、Fukami Yuki、Takahashi Mie、Yagi Satoru、Furukawa Soma、Suzuki Masashi、Kishimoto Yoshiyuki、Murate Kenichiro、Nukui Takamasa、Yoshida Tamaki、Kudo Yosuke、Tada Mikiko、Higashiyama Yuichi、Watanabe Hirohisa、Nakatsuji Yuji、Tanaka Fumiaki、Katsuno Masahisa
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Journal Title
European Journal of Neurology
Volume: 31
Pages: e16091
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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