2023 Fiscal Year Research-status Report
尿細管間質障害腎から同定されたPb-Fam2ホモログは病態へ如何に関与するか?
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23K07707
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Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
清水 芳男 順天堂大学, 医学部, 教授 (50359577)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 腎障害 / 尿細管間質 / 新規遺伝子 |
Outline of Annual Research Achievements |
腎障害は急性腎障害(AKI)と慢性腎臓病(CKD)に大別されるが、その本体は病理学的に腎臓の尿細管間質障害と考えられている。AKI、CKD腎ではともに尿細管の萎縮や間質への炎症性細胞浸潤や線維化が認められる。このことから、尿細管間質障害の発症メカニズムを明らかにすれば、新たな腎疾患治療法の開発に資するものとなると考えられる。PB-Fam2ホモログは、我々のグループがマウスの急速進行性腎炎モデルであるBSA腎炎の腎機能低下進行期腎の尿細管間質分画から同定した新規の遺伝子である。RT-PCRの解析では、正常マウスの胸腺、脾臓に発現が認められた。アミノ酸配列を基にPb-Fam2ホモログペプチドに対するポリクロ―ナル抗体を作成し、組織染色を行ったところRT-PCRの結果と同様に胸腺・脾臓に発現が認められ、AKIモデルマウスである阻血再潅流腎においても尿細管間質に浸潤する細胞に一致して発現がみられた。次いで抗Pb^Fam2モノクロ―ナル抗体を作成した。この抗体を用いて各種培養細胞に対してフローサイトメトリーにて発現を調べたところ、血球系由来、上皮細胞由来の細胞においても発現がみられた。この現象に着目し、RT-PCRを条件を変えて再度行ったところ、胸腺、脾臓以外に腎臓、心臓などにも発現がみられることが判明した。次いで、モノクローナル抗体の精度管理のため、発現が明らかな培養細胞対して、Crisper-Cas9を用いたPb-Fam2ホモログのノックアウト細胞を作成し、解析を行うことを企図した。現在、ノックアウト細胞作製用のプラスミドを作成中である。Crisper-Cas9のオフターゲット作用低減のためゲノムを2か所で切断するようプラスミドを作っているが、1つは完成したが2つ目が出来ていない。その他、本遺伝子の染色体上の位置がデータベースサーチで判明していなかったが、ようやく位置が決定できた
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度の研究では、作成したモノクローナル抗体の精度管理が一番重要と考えている。当初は、抗Pb-Fam2ホモログモノクローナル抗体をマウスに投与して、急性腎障害(AKI)モデルの阻血再潅流腎に対する影響をみる予定であった。抗体の精度が良くなければ、そもそもの前提が誤りとなるので、慎重を期する必要がある。培養細胞に対するフローサイトメトリーの結果が、比較的広い範囲の臓器・組織分布を示唆するものであったため、RT-PCRをやり直したことは無駄ではなかったと考える。抗体の特異性検定には、Crisper-Cas9によってノックアウト細胞を作成し、元の細胞との反応性の比較が現在のスタンダードになっているため、マウスへの投与実験の前にこの確認は必要である。幸い、1つ目のプラスミドは完成し配列の確認も済んでいる。もう一方は、配列確認で想定の通りに作製が出来ていなかったため、再作成中である。投与実験に関するテクニカルな問題は既に解決されており、モデル作成、解剖、臓器採取、検体処理、病理組織標本作成などは、抗体を始めとする材料がそろった状態であれば速やかに施行が可能な状態である。万が一、現在使用しているモノクローナル抗体の反応性に疑義が生じても、まだ細かな検定を経ていないクロー ンがあるため、こちらのハイブリドーマを起眠させ、評価を行う用意がある。今後モノクローナル抗体が大量に必要となるが、すでに大量培養から抗体精製を行っており、こちらも問題なく行える状況である。原因は不明であったがPb-Fam2ホモログ遺伝子の染色体上の位置が、一般のGenBankデータベース上での検索では明らかにならなかった。動物実験や分子生物学的な実験を実際に行っている実験施設のゲノム解析に詳しいスタッフに依頼し、再度細かな検索を行ったところ、位置の決定が行えた。以上から、当初計画からやや遅れている状態と結論した。
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Strategy for Future Research Activity |
現状は所有する抗Pb-Fam2ホモログモノクローナル抗体の精度管理を行っているため計画より若干の遅れが生じた状態である。現状を鑑み、以下の方策で計画を進める。 ①抗Pb-Fam2モノクローナル抗体の検定:Crisper-Cas9を用いて、Pb-Fam2ノックアウト培養細胞を作製中である。Crisper-Cas9のオフターゲット作用を減弱するため2か所でのゲノム切断を予定している。2つのプラスミドベクターを作製したが、シーケンスで使用できないことが判明した。現在、再作成中である。完成し代ベクターを導入しPb-fam2ホモログノックアウト培養細胞を作製し、parent細胞との発現の比較を行う。 ②マウスに対する抗Pb-Fam2ホモログ抗体の投与実験:①でモノクローナル抗体が機能することが判明すれば、この抗体のin vivoでの作用を明らかにする。生成した抗体をマウスの尾静脈から投与し、翌日全身麻酔下で急性腎障害(AKI)モデルである阻血再灌流実験を行う。片腎を腎頚部で45分クリップし、再度解放する。翌日これらのマウスに対し心臓全採血、臓器摘出を行う。血中のシスタチンCで腎機能、AKIモデル作製から翌日までは代謝ケージ内で蓄尿を行い24時間の尿量と尿蛋白・潜血の確認を行う。対照としてコントロール抗体を静注したマウスを用いる。モデルは片腎摘出なので、阻血側と非阻血側腎もそれぞれが対照となっている。AKIの発症機序に、腎間質・尿細管領域に発生する2次リンパ組織が重要との報告があるため、この組織の大きさに差が生じるかを観察する。 ③発現臓器・組織の決定:①の後に、正常組織での発現を免疫染色で明らかにする。ポリクローナル抗体では、脾臓・胸腺内の特異的な細胞に染色が見られたため、フローサイトメトリで細胞表面マーカーと2重染色を行い、血球系細胞のどの分画に発現があるかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
Pb-Fam2ホモログは、急速進行性腎炎モデルの腎障害増悪期の尿細管・間質分画から同定された新規の遺伝子である。Pb-Fam2ホモログの研究は、継続して行われており、①遺伝子のクローニング、②RT-PCRでの発現状況の確認、③ポリクローナル抗体の作製、④③の抗体を用いた発現解析、⑤抗Pb-Fam2ホモログモノクローナル抗体の作製まで進行した状態で、本研究費を戴くことができた。本年度は、以前行ったRT-PCRでの正常組織における発現状況(胸腺・脾臓のみ)とモノクローナル抗体を用いた培養細胞での発現状況(血球系・上皮由来細胞に広く発現)に矛盾が生じたため、RT-PCRの再検討およびモノクローナル抗体の検定を行っていた。RT-PCRを条件を変えて行うことで胸腺・脾臓以外に腎臓、心臓などの臓器で発現が認められた。次いで、モノクローナル抗体の品質管理として、Crisper-Cas9によるノックアウト細胞を作製し、フローサイトメトリで確認することとしたが、現在はベクターの作製中である。2つのベクターを作製する予定であったが、1つ目が完成し、2つ目を再度作っている途中である。抗体の品質が確認出来た段階で、マウスへの投与実験を行う予定である。機材や試薬はこれまで使用していたもので間に合ったため剰余金が生じた。今後も研究費を浪費をしないよう、注意して費消する所存である。
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[Book] 内科診断学2024
Author(s)
清水芳男 共著
Total Pages
1084
Publisher
医学書院
ISBN
978-4-260-05315-0
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