2023 Fiscal Year Research-status Report
予後不良なTCF3::HLF陽性急性リンパ性白血病の抗がん剤耐性を克服する治療の開発
Project/Area Number |
23K07809
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
赤羽 弘資 山梨大学, 大学院総合研究部, 講師 (90377531)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 急性リンパ性白血病 / TCF3::HLF / 薬剤耐性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、TCF3::HLF融合遺伝子陽性急性リンパ性白血病(TCF3::HLF陽性ALL)における抗がん剤耐性の機序を解明し、予後不良なTCF3::HLF陽性ALLに対する新たな治療を開発することである。このために、複数のTCF3::HLF陽性ALL細胞株を用いてゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニング解析を行い、TCF3::HLF陽性ALLの個々の抗がん剤耐性に関わる遺伝子を網羅的かつ効率的に検索する予定である。本年度は、ゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニングを行う準備として、レンチウイルス感染の手法を用いてドキソルビシン誘導性にCas9を安定発現する(Tet-On Cas9)TCF3::HLF陽性ALL細胞株の樹立を試みた。その結果、対象とした4株のTCF3::HLF陽性ALL細胞株のうちYCUB2株でTet-On Cas9の導入に成功したが、他の3株については導入が不成功であった。 この実験と平行して、私達はTCF3::HLF陽性ALLにおける抗がん剤耐性の機序として、がん幹細胞のマーカーとして知られるCD133が関与している可能性について検討した。最初に、当科が保有するALL細胞株を対象としてCD133の遺伝子発現レベル(RNA-seq解析)と細胞表面発現レベル(フローサイトメトリー解析)を検討したところ、4株のTCF3::HLF陽性ALL細胞株はいずれも高レベルの発現を示した。さらに、当科が保有するALL細胞株のうち、CD133発現の陰性株(61株)と陽性株(15株)を対象として薬剤感受性試験を行ったところ、CD133陽性株は陰性株と比較してダウノルビシンやシタラビンなどの特定の抗がん剤に対して有意な耐性を示した。これらの結果から、TCF3::HLF陽性ALLに発現するCD133は特定の抗がん剤耐性に寄与している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
私達はゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニング解析を行う準備としてTet-On Cas9を導入したTCF3::HLF陽性ALL細胞株の樹立を試みているが、予定している4株のうちTet-On Cas9の導入に成功したのは現時点で1株のみであり、他の3株については導入が不成功であった。TCF3::HLF陽性ALLの抗がん剤耐性に関わる遺伝子を同定するためには、複数のTCF3::HLF陽性ALL細胞株を用いて解析することが重要と考えられる。そこで、今後も実験条件を変更しながらTet-On Cas9導入株の作製に取り組む予定である。 その一方で、私達はTCF3::HLF陽性ALLに発現するCD133が特定の抗がん剤耐性に寄与している可能性を見いだした。今後はその分子生物学的機序を解明することで、得られた結果からTCF3::HLF陽性ALLの抗がん剤耐性を克服し、臨床的に応用可能な治療の開発を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニングを用いたTCF3::HLF陽性ALLにおける個々の抗がん剤耐性に関わる遺伝子の検索 TCF3::HLF陽性ALLにおける個々の抗がん剤耐性の機序を解明するために、複数のTCF3::HLF陽性ALL細胞株を用いてゲノムワイドCRISPR/Cas9スクリーニング解析を行う。この手法の利点は、数万の遺伝子を対象としたCRISPR/Cas9のsingle guide RNA(sgRNA)ライブラリを使用することによって、各遺伝子を単一でノックアウトした細胞プールを作製できることである。標的遺伝子のノックアウトによって抗がん剤耐性が消失した(抗がん剤感受性が高まった)細胞は、抗がん剤処理後にプール内での比率が少なくなる。この手法を用いてTCF3::HLF陽性ALLの個々の抗がん剤耐性にかかわる遺伝子を効率的にスクリーニングする。 現在、本解析の準備として、ドキソルビシン誘導性にCas9を安定発現する(Tet-On Cas9)TCF3::HLF陽性ALL細胞株の樹立を進めている。現在、予定している4株のTCF3::HLF陽性ALL細胞株のうち1株でTet-On Cas9の導入に成功しており、残りの3株についても実験条件を変更しながらTet-On Cas9導入株の作製を進める。 解析対象の抗がん剤については、現行の小児ALLの標準治療で使用されるビンクリスチン、ダウノルビシン、プレドニゾロン、L-アスパラギナーゼ、シタラビンなどを予定している。同様の解析をTCF3::HLF陽性ALL以外のALL細胞株でも実施し、得られた結果をTCF3::HLF陽性ALL細胞株と比較することで、予後不良なTCF3::HLF陽性ALLに特徴的な抗がん剤耐性機序を明らかにする。
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Causes of Carryover |
本解析の大部分は、研究室および実験機器センターの既存の設備で解析が可能である。そのため、当該年度においては、解析に必要な消耗品の購入費用(細胞株の維持に必要や牛胎児血清、サイトカインおよび培養容器の費用、CRISPR/Cas9スクリーニングに使用するTet-On Cas9導入細胞の作製費用、CD133発現のフローサイトメトリー解析で使用する抗体の購入費用)が研究経費の大部分を占めた。今後予定する解析の研究経費に関しても、同様に消耗品の購入費用が大半を占める。具体的には、細胞株の維持に必要や牛胎児血清、サイトカインおよび培養容器の費用、Tet-On Cas9導入細胞の作製費用 、CRISPR/Cas9スクリーニング解析で使用するゲノムDNA抽出キットやシークエンス解析の費用として予定している。
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