2023 Fiscal Year Research-status Report
生着不全の分子機序の解明;Gas6-TAMシグナルの役割
Project/Area Number |
23K07841
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Research Institution | Fukushima Medical University |
Principal Investigator |
深見 伸一 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (90424150)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 生着不全 / 移植片機能不全 / 造血幹細胞移植 / マクロファージ |
Outline of Annual Research Achievements |
同種造血幹細胞移植は、造血器悪性腫瘍や難治性の造血障害に対して根治が期待できる治療である。一方で治療の成否は合併症のコントロールにかかっていると言っても過言ではない。中でも、生着不全や移植片機能不全は致死的な合併症であるにもかかわらず十分な治療法は確立されていない。これら合併症の発生機序は不明な点が多く、原因として報告されているリスク因子も多彩である。我々は、Gas6-TAMシグナルへの介入が様々な疾患の治療に奏功することを報告してきた。また、生着不全患者の血漿中においてGas6及びその受容体の一つであるMerの可溶性リガンド結合ドメインの濃度が有意に上昇していることをも確認している。 本研究では、生着不全の病態生理へのGas6-TAMシグナルの関与を解析するとともに、造血幹細胞のホーミングやニッチ形成における役割を明らかにする。また、本シグナルへの介入効果を検討し、より良い移植方法確立のための基礎データの提供を目指す。 C57BL/6, BALB/c間のハプロタイプ不一致の同種造血幹細胞移植による生着不全マウスの作製を試みた。ハプロタイプ不一致にかかわらず、生着不全個体はほとんど出現しなかった。そこで、炎症惹起の程度や時期の工夫により一定頻度で生着不全を示す個体が出現する条件が確立できた。生着不全個体の骨髄は十分なcellularityを示さず、ROS産生レベルが高値であった。これは、ヒトにおける生着不全例でも報告されており、同様の機序により生着不全が生じていると考えた。骨髄マクロファージのサブタイプを解析したところ、M1フェノタイプの割合が増加していた。性周期と生着不全の出現頻度を調べたところ関連性はなかったが、GVHDの重症度が異なる知見を得た。また、性ホルモン阻害剤投与により一次生着不全は誘導できなかったが、二次生着不全を示す個体の出現が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生着不全の発生過程をマウスで解析するためのモデルの確立がおおむねできた。ヒトの生着不全例での報告と同様に骨髄中のROSレベルは高値を示したことから類似のメカニズムのより生着不全を惹起しているものと考えられた。このモデルにおけるGas6及びその受容体の発現の解析を進めている。 一方、必ず生着不全個体が出現しない理由についても追求する。これは生着不全を回避する新たな方法の発見につながると考える。少なくとも、性周期の違いにより造血幹細胞移植の主要な合併症であるGVHDの重症度が異なったため、レシピエントの何らかの身体的な状態が移植成績に影響を与えることは想像に難くない。この因子への介入が生着不全の惹起や予防につながり、より良いモデルマウスの作製や移植成績向上につながると考えられる。また、ホルモンシグナルへの阻害剤を用いた介入がニ次生着不全を惹起したことから移植片機能不全モデルになりうるか検討する。
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Strategy for Future Research Activity |
生着不全モデル作製においては、リスク因子のオーバーラップにより高頻度に生着不全を生じる工夫を重ねる。必ず生着不全になるマウスを作製できれば、生着過程におけるドナー細胞やレシピエント細胞の動態を比較検討する。Gas6-TAMシグナルが移植成績に及ぼす影響をリガンドや阻害剤の投与により行い、移植骨髄のROSレベルやマクロファージサブタイプを中心に解析を行う。
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