2023 Fiscal Year Research-status Report
体性感覚野における慢性疼痛発症機序の解明:痛み刺激に応答する神経細胞の役割
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23K08377
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
石川 達也 金沢大学, 医学系, 助教 (00750209)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 一次体性感覚野 / 慢性疼痛 / TRAPシステム / DREADDシステム / in vivo カルシウムイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、慢性疼痛発症に関わる一次体性感覚野(S1)の神経細胞集団を特定し、これら神経細胞を標的とした当該疾患の治療法を確立する事である。申請者の研究成果を含むこれまでの先行研究により、S1には痛み刺激に応答する神経細胞集団の存在が電気生理学やin vivo 2光子イメージングにより明らかとなっている。したがって、本年度は痛み刺激に応答するS1の神経細胞集団が慢性疼痛の発症や、症状の緩和に影響を及ぼすか行動薬理学的手法により検討した。 申請者はTargeted-Recombination-in-Active-Population(TRAP)システムを用いて、痛み刺激に応答したS1の神経細胞集団にのみ化学遺伝学的手法(DREADDシステム; Gi-DREADD)が構築されたマウスを作製した。このマウスの坐骨神経を部分結紮することで慢性疼痛モデルを作製し、以下1.と2.の研究成果を得ている。1.痛み刺激に応答するS1の神経細胞集団をDREADDシステムにより一時的に抑制すると、慢性疼痛の症状(痛覚過敏)を(デザイナーリガンドであるCNOの効果がある間は)減弱することを明らかにした。さらに、2.坐骨神経結紮直後から痛み刺激に応答するS1の神経細胞集団をDREADDシステムにより長期的(結紮後1週間)に抑制すると、(CNOの効果がない場合でも)慢性疼痛による痛覚過敏が抑制されることも見出した。 以上の結果から、少なくとも痛み刺激に応答したS1の神経細胞集団は慢性疼痛発症の予防や症状の緩和に関与することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、痛み刺激に応答したS1の神経細胞にDREADDシステム(Gi-DREADD)が構築されたマウスの坐骨神経を部分結紮し慢性疼痛モデルを作製した。このマウスを用いて以下1.と2.の研究結果を得ることができ、少なくとも痛み刺激に応答したS1の神経細胞が慢性疼痛発症や症状の緩和に関与することが示唆された。また、ファイバーフォトメトリーシステムのセットアップを進めデータの取得および解析を行い、3.の成果をあげた。 1.痛み刺激に応答するS1の神経細胞をDREADDシステムにより一時的に抑制すると、慢性疼痛の症状(痛覚過敏)を(デザイナーリガンドであるCNOの効果がある間は)緩和することが明らかとなった。 2.坐骨神経結紮直後から痛み刺激に応答するS1の神経細胞をDREADDシステムにより長期的に抑制すると、(CNOの効果がない場合でも)慢性疼痛の症状(痛覚過敏)が抑制されること(慢性疼痛発症の抑制)も明らかになった。 3.in vivoファイバーフォトメトリーシステムを導入し、当技術を用いて炎症性疼痛発症前後のマウスのS1における神経活動の経時変化をカルシウムイメージングにより計測した。この研究成果を筆頭著者としてBiol Pharm Bull.に報告した(Ishikawa et al., 2024)。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は痛み刺激に応答するS1の神経細胞集団の神経活動をDREADDシステムにより人為的に抑制し、当該神経細胞集団が慢性疼痛発症の予防や症状の緩和に関与していることを明らかにした。また、in vivoファイバーフォトメトリーシステムにより炎症性疼痛発症前後のS1の神経活動をカルシウムイメージングにより同一動物で計測し、この研究成果をBiol Pharm Bull.に報告した。 これまでの先行研究から慢性疼痛発症には視床-大脳皮質間などの神経回路が重要な役割を果たしていることが多数報告されている。したがって、次年度以降は慢性疼痛発症に関与すると考えられる痛み刺激に応答するS1の神経細胞のうち、より当該疾患と関係の深い神経回路を行動薬理学、in vivoイメージングや組織化学的に検討する。 これらの研究成果を基に痛み刺激に応答するS1の神経細胞集団を標的とした当該疾患の治療法または予防法確立の一助となることを目的に本研究課題を進める。
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Causes of Carryover |
今年度予定していた行動実験やファイバーフォトメトリーシステムのセットアップが順調に進み、試薬やマウス等の購入を見合わせたため費用を軽減することができた。当該費用は以下1)-3)に記す通り次年度計画している実験(in vivo 2光子イメージング法、ファイバーフォトメトリー法によるカルシウムイメージングや免疫染色)に使用する試薬や消耗品の購入に充てる予定であるため次年度使用額とした。 1) in vivo 2光子カルシウムイメージング法を用いて、CNO依存的に痛みに応答するS1の神経細胞の活動が誘導されるか検討する。本研究は金沢医科大との共同研究のための交通費および当該実験に関わる消耗品(CNOやGCaMPを発現するアデノ随伴ウイルスなど)の購入に充てる予定である。2) 痛みに応答したS1の神経細胞の細胞種を同定するため、免疫組織化学的手法より抑制性および興奮性神細胞の割合を計測する。本研究に使用する抗体および消耗品の購入に充てる予定である。3) ファイバーフォトメトリー法により、視床内側核の神経活動が痛みに関わるS1の神経細胞の活動に依存して活性化するか検討する。本研究に使用する消耗品(カニューラなど)の購入に充てる予定である。
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