2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of innovative therapy targeting TET, a DNA demethylase
Project/Area Number |
23K08571
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
中原 由紀子 佐賀大学, 医学部附属病院, 講師 (50380770)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
阿部 竜也 佐賀大学, 医学部, 教授 (40281216)
伊藤 寛 佐賀大学, 医学部, 助教 (50795375)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | TET / IDHmutation / glioma stem cells |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、特に悪性度の高い神経膠腫におけるTETの役割とその制御機構をヒストン修飾によるエピジェネティクス制御の観点から検討している。さらに治療抵抗性を示す一因である腫瘍幹細胞の分化、非対称性分裂にもTETが関与している可能性がある。TETの役割と制御機構を、DNAメチル化異常およびヒストン修飾によるエピジェネティック異常の観点から解明するとともに、TETを標的とした新たなエピジェネティクス治療の開発、応用につながる基礎研究を行うことが目的である。TETは代謝とエピゲノム異常のどちらにも関与する分子であり、神経膠腫のうちWHO grade 4に該当するIDH野生型膠芽腫、Diffuse midline glioma, H3K27M、高悪性度astrocytoma, CDKN2Aホモ欠失型の腫瘍化に関与している。 患者の手術摘出標本の遺伝子異常を評価し、これらの遺伝子異常を有する患者由来組織から腫瘍幹細胞を単離、培養し、継代可能で、かつ患者の腫瘍組織と同様の表現型をもつ腫瘍幹細胞株を樹立した。樹立が可能であった細胞株もあるが、樹立が難しい遺伝子異常を有する細胞もあった。IDH野生型に関しては、マウス脳内に梗塞を作り低酸素状況での腫瘍幹細胞を採取する予定であったが、腫瘍形成前にマウスが死亡するため、低酸素条件はインキュベーター内で行うことに変更した。各遺伝子異常を有する腫瘍幹細胞株を用いて、腫瘍細胞の幹細胞性の特徴である非対称性分裂を蛍光免疫染色法で検討した。TETの発現をmRNAレベルと蛋白レベルで評価し、細胞株間の差異を検出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
患者由来腫瘍幹細胞株の樹立を行った。患者の手術標本組織検体からDNAを抽出し、サンガ―シークエンス法およびMLPA法を用いて、代表的な脳腫瘍関連遺伝子異常(IDH1R132, IDH2R172, H3K27M, BRAFV600E, CDKN2A HD)を評価した。各遺伝子異常が確認された組織から、患者由来腫瘍幹細胞を単離・培養した。In vitroで培養したのち、マウスに脳内移植し、腫瘍幹細胞株をIDH1R132, IDH2R172, H3K27M変異株を得た。IDH野生型患者腫瘍組織から腫瘍幹細胞を培養した。中大脳閉塞マウスモデルの脳梗塞巣内に腫瘍幹細胞を移植したが、脳梗塞の影響が大きく、腫瘍幹細胞が定着、増殖し腫瘍塊を形成するまで、マウスが生存することはできなかった。低酸素条件下での実験は、in vitroの系で行うことにし、CO2インキュベーター内で酸素濃度5%、1%で培養した腫瘍幹細胞を使用した。 Stemness関連遺伝子発現および非対称性分裂解析については、腫瘍幹細胞を培養する際、接着細胞群とスフェロイド形成細胞群と分離して検討した. 腫瘍幹細胞マーカーであるCD133, CD44, SOX2, KLF4についてqRT-PCRを行った。非対称性分裂の頻度について、各細胞群で蛍光免疫染色法を用いて可視化を試みた。抗体はγ-Tubulin, Pancadherin, NuMA, DAPIを用いた。接着細胞群に対しスフェロイド形成群で非対称性分裂の頻度が高い傾向にあった。TET発現解析として、TET1, 2, 3のmRNA発現をqRT-PCR、各蛋白発現をウエスタブロッティングで測定した。TET1,2,3の発現量に細胞間の違いがあった。しかし、mRNA発現と蛋白発現は発現量に相関性がなかった。発現量は、IDH1遺伝子の変異との関連はなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き患者由来腫瘍幹細胞株の樹立をめざす。特に樹立できていないBRAFV600E, CDKN2A HD遺伝子異常をもつ患者由来腫瘍幹細胞の樹立を試みる。腫瘍幹細胞の樹立が困難な場合には、これまで当研究室で保存している凍結組織を培養した初代培養細胞を用いて、非対称性分裂解析およびTETの発現・酵素活性解析を行う。これらの結果は、培養株として樹立できていないため再現性に問題が出る可能性があるが、10年近くの間に手術を実施した腫瘍組織検体は全て保管しており、IDH野生型、IDH1R132型、 IDH2R172型の腫瘍については、検討可能な検体数を保有しており、可能と予想される。 TETの発現がmRNAと蛋白レベルの間に違いがあることは、エピゲノム制御を受けている可能性を強く示唆している。すでに樹立できているH3K27M変異株を用いて検討していく。また、これまでlower grade gliomaにおけるTET2活性に関する報告があるが、これらはIDH変異の有無でWHOグレードを定義する分類より前の時代のデータであり、IDHとの相関性は明確ではない。シークエンスで確認できている腫瘍細胞を用いて、TETの関与を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、IDH変異がなくても低酸素条件下という環境因子が加わるとoncometabolite である2-ヒドロキシグルタル酸が蓄積し、IDH野生型膠芽腫の腫瘍形成に関与しているという仮説を立てていた。IDH野生型の遺伝子プロファイルをもつ細胞株に関しては、中大脳動脈閉塞モデルマウスを用いて、脳梗塞を作り低酸素状況での腫瘍幹細胞を採取する予定であった。しかし中大脳動脈閉塞モデルマウスが死亡するため、この手法を断念した。そのため今年度の消耗品費が予定より少なくなった。次年度はCO2インキュベーターを用いたIn vitroの実験系で行うため、細胞培養関連試薬として使用する予定である。また、腫瘍幹細胞株としての樹立が困難と判断した場合は、当研究室で保存している患者由来初代培養細胞を用いて、非対称性分析解析およびTET発現、酵素活性解析を行っていくため、これらの消耗品費用に充てる。
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