2023 Fiscal Year Research-status Report
ヒト胎盤の発生・分化を調節する分子メカニズムと疾患の病態解明
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23K08838
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 枝里 東北大学, 医学系研究科, 助教 (70634971)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
柴田 峻 東北大学, 医学系研究科, 助教 (40885670)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ヒト胎盤幹細胞 / 転写因子 / CRISPRスクリーニング |
Outline of Annual Research Achievements |
妊娠高血圧症候群(HDP)や癒着胎盤などの周産期合併症は増加しており、その原因として高齢妊娠や生殖補助医療の増加が挙げられる。こうした胎盤異常に起因する周産期合併症の原因として、母体の加齢やストレスがエピゲノム変異を引き起こし、胎盤の発生や分化に影響を与える可能性が指摘されている。具体的には、胎盤ホルモンを分泌する合胞体栄養膜(ST)細胞や、絨毛外栄養膜(EVT)細胞の機能低下が考えられる。しかし、未分化な細胞性栄養膜(CT)細胞からSTやEVT細胞への分化を調節するメカニズムはまだ解明されていない。 近年、申請者らはヒト胎盤幹(TS)細胞の樹立に世界で初めて成功した(Okae et al. Cell Stem Cell, 2018)。このヒトTS細胞は、生体の胎盤細胞と極めて類似した遺伝子発現・エピゲノム修飾パターンを示し、ST細胞、EVT細胞へ容易に分化誘導できるなど、極めて有用な細胞モデルである。本研究では、胎盤細胞の分化に関わる転写因子やエピゲノム修飾、ゲノム高次構造の変化を詳しく解析し、疾患由来TS細胞を利用して疾患胎盤における異常を調査する。これにより、疾患の発症機序やバイオマーカーの発見、治療薬の開発につながる可能性がある。 今年度は、CRISPRスクリーニングを用いて、胎盤の細胞分化に必須の転写因子の同定を行い、GCM1やDLX3といった転社因子が、ST細胞、EVT細胞両方への分化に必要であることを明らかにした。この発見は、胎盤の細胞分化を制御するメカニズムを理解する重要な手がかりとなるものであり、HDPなどの周産期疾患の治療法発見に役立つ可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、ヒトTS細胞を用いたCRISPRスクリーニングにより、胎盤細胞の増殖や分化に重要な転写因子を明らかにした。スクリーニングに適切な標的遺伝子を選ぶため、MGIデータベースにおける「abnormal placenta morphology」に関連するヒト遺伝子のマウスにおけるオーソログおよび初期のヒト胎盤細胞で中間以上の発現を持つ転写因子、合計850個の標的遺伝子を選定した。これらの標的遺伝子に対するsgRNAを発現するレンチウイルスライブラリを作成し、Cas9を発現させたヒトTS細胞に感染させた。これらの細胞を未分化なまま増殖させたもの、EVTへの分化を誘導する培養条件でEVT細胞マーカーであるHLA-G陽性に分化したもの、ST分化を誘導する培養条件でST細胞の特徴である細胞融合により40uM以上の大きさになったものについて、ゲノムDNAを抽出して次世代シーケンサーで解析し、gRNAの割合に変化があったものをスクリーニングした。例えば、EVT分化に必要な遺伝子の場合、その遺伝子に対応するgRNAが発現した細胞は分化できなくなるため、分化後の細胞集団ではゲノムDNA中のgRNAのコピー数が減少するはずである。 このCRISPRスクリーニングにより、ヒトTS細胞の増殖に必要な213の遺伝子が特定された。これらの転写因子には、GATA2/3、TFAP2C、TEAD4など、未分化なヒト胎盤幹細胞の維持に重要な既知の遺伝子が含まれており、スクリーニング系が正常に機能したことが証明された。さらに、EVT分化を促進する遺伝子21個と、ST分化を促進する遺伝子54個も同定された。 このように、ヒト胎盤の細胞の増殖と分化に必要な遺伝子の特定に成功したことから、研究計画は順調に進捗していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、ヒトTS細胞の増殖と分化に必要であることがわかった遺伝子について、それぞれのノックアウト細胞を作成し、胎盤における機能を確認する。 さらに、分化に重要な転写因子が分化に伴いどのようなエピゲノム変化を示すか理解するため、未分化なTS細胞と、ST、EVT細胞に分化誘導した細胞を用いて、分化に必須であることが明らかになった転写因子の結合部位と、ヒストン修飾の変化をChIP法にて解析する。 また、HiChIP法(Mumbach et al., Nat Methods, 2016)を用いて、ゲノム高次構造を解析する。この解析により、遺伝子の転写開始点と空間的に近接していた転写因子領域を明らかにすることで、分化を制御する転写因子と、その標的遺伝子の関係を網羅的に明らかにする。 さらに、HDP患者由来TS細胞を作成し、正常TS細胞と比較して分化能と遺伝子発現の異常について解析する。ST細胞への分化能は、細胞融合とホルモン産生能によって比較し、EVT細胞への分化は、細胞表面マーカーの発現と細胞外マトリックス上での浸潤能によって検討する。さらに、疾患特異的なゲノム高次構造や、DNAメチル化・ヒストン修飾などのエピゲノム修飾の異常についても探索する予定である。
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[Journal Article] CRISPR screening in human trophoblast stem cells reveals both shared and distinct aspects of human and mouse placental development2023
Author(s)
Takanori Shimizu*, Akira Oike*, Eri H. Kobayashi*, Asato Sekiya, Norio Kobayashi, Shun Shibata, Hirotaka Hamada, Masatoshi Saito, Nobuo Yaegashi, Mikita Suyama, Takahiro Arima, and Hiroaki Okae. *T.S., A.O., and E.H.K. contributed equally to this work.
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Journal Title
Proceedings of the National Academy of Sciences
Volume: 120
Pages: -
DOI
Peer Reviewed
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