2023 Fiscal Year Research-status Report
Reserch of Sperm Protection from Deep Space Radiation
Project/Area Number |
23K08843
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
若山 清香 山梨大学, 大学院総合研究部, 助教 (10525918)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 精子 / 遺伝子保存 / 深宇宙放射線 / 顕微授精 / 重粒子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヒトや家畜など哺乳類が月や火星へ移住するときにさらされる深宇宙放射線が、生殖細胞や子孫へどのような影響を与えるのか明らかにすることは人類の未来のために必須である。申請者は今までにフリーズドライ精子を宇宙ステーションに打ち上げ、長期間宇宙に保存した場合の生殖細胞および次世代への影響を研究してきた。しかし深宇宙放射の影響は、地球からわずか400キロ上空の近宇宙を回る国際宇宙ステーション(ISS)では調べることは出来ず、月周回軌道を回るゲートウェイ(2025年より建築)でのみ可能である。そこで本研究では、深宇宙放射線の生殖細胞および次世代への影響を調べるために基本となる、生殖細胞への影響をリファレンスする研究として、地上実験およびISSでの実験を行うことで、フリーズドライ(FD)精子が次世代への影響を調べることができる深宇宙生物線量計となりうることを証明する。 深宇宙放射線はX線,γ線,α線などに加え様々な重粒子線成分が含まれている。本研究では、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構における重粒子線がん治療装置(HIMAC)にて、宇宙放射線種の中でもより生物的な影響が強いと言われている重粒子を様々な系統のFD精子に照射し、受精や発生にどのような影響がみられるか明らかにし、深宇宙放射線防護のための手法を確立する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度の研究では、宇宙放射線種の中でもより生物的な影響が強いと言われている重粒子を様々な系統のFD精子に照射し、受精や発生にどのような影響がみられるか明らかにする研究を行った。HIMAQにおいてフリーズドライ精子に0-10Gyまで鉄重粒子線を照射し、山梨大において発生実験を行ったところ、F1系統及びB6系統ともに重粒子線照射の強度が上がるにつれ精子のDNA損傷および受精卵のDNA損傷の割合は上昇し、同じように産仔率自体も低下した。実験の結果F1,B6、ICRのどの系統のマウスも約10Gyが鉄重粒子線の出産限界線量であることが明らかとなった。 さらに、宇宙放射線の防護を想定し、重粒子照射の際、10cm厚のポリエチレン板で重粒子防護を施した区と防護なしの区で比較したところ、重粒子照射出力が上がるにつれて、精子DNAダメージは上昇するものの、発生率はさほど変化しなかった。これは、受精卵に特徴的なDNAの損傷があっても初期発生には影響しないことから由来していると思われた。しかし、出産率においては顕著な差が見られ、10Gy以上の照射区では防護ナシでは産仔を得ることができなかったが、防10cmポリエチレン板で重粒子防護を施した区では、50Gyの重粒子線照射でも産仔が生まれるほどの耐性を持つことが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究結果を踏まえ、ポリエチレンで深宇宙放射線を模した重粒子を防護することができることが明らかとなったことから、2024年度では実際の宇宙ステーションなどでより汎用性の高い”水“を用いた防護の実験を行う。水(純粋)はポリエチレンと同様に水素分子が多く、防護効果が見込まれるのと同時に、宇宙ステーションで生活などに転用が可能であるため、実用的な防護手法として非常に利便性が高い。そのため実際の宇宙保存に向けた地上実証実験としてポリエチレン防護区と同様な実験を行う。 また、きぼう」利用フィジビリスタディ(一般募集区分)において「哺乳類は深宇宙で次世代を残せるか?」をテーマに研究代表者として計画を進めており、2023年度の本実験結果を踏まえ、2023年に行われた“ISSフライト移行審査”に合格した。このことからすでに、2024年3月にSPACE X-30号機にてISSへ本実験サンプルを打ち上げ、本申請テーマの実証実験を行っている。この実験ではサンプルは2025年はじめに地上に帰ってくることから、実際の宇宙での宇宙放射線防護の実験の実証を行う予定である。
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Causes of Carryover |
2023年度では国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構における重粒子照射施設(HIMAC)での照射実験が1回のみの実施となり、大きく出張費や実験費が削減された。理由としてはHIMAC施設の電気代が大幅に値上がり、重粒子照射の回数を1研究者につき1回に減らすこととなったためである。そのため、実験に使用するマウスの購入費や出張費などに大きく影響を及ぼした。しかし、今までの照射実験で十分にサンプルを確保できたことから、本実験の今後の遂行には影響は出ないものと思われる。 2024年度では、重粒子照射が終了している、水防護の区の実験をメインに行う。マウスの購入や抗体などの試薬、さらには海外における発表(COSPAR2024)などに研究費を使用する。さらに、すでに宇宙に打ち上げたサンプルの帰還が寄すされることから、その解析に伴う研究費を計上する。
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