2023 Fiscal Year Research-status Report
環境中微粒子によるタンパク質や細胞外小胞の吸着が鉄代謝と卵巣がん形成に及ぼす影響
Project/Area Number |
23K08883
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
本岡 大社 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (90907776)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 卵巣がん / 発がん / 環境物質 / 鉄 / 吸着能 / 細胞外小胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノマテリアルを含む微粒子は「吸着性」を示すことが多いが、この性質が生体に及ぼす影響は未だ明らかではない。本研究では、卵巣がんとの関連性が指摘されているアスベストとタルクを具体的な微粒子として選び、「吸着性」が「発がん」にどのように関わるかを解明することを目的とする。また、微粒子の吸着性を調整することで人体に安全なナノマテリアルおよび微粒子の開発と運用を進め、危険な微粒子の環境中への拡散を防ぎ、健康寿命の延伸を図ることを最終的な目標としている。 本検討では2023年度、2024年度、2025年度それぞれの進捗目標を掲げている。2023年度の目標は、アスベストとタルクが吸着する物質の同定と、そのタンパク質の吸着が発がん性に及ぼす影響を明らかにすることとしていた。 2023年度の検討では、アスベストとタルクが中性条件のpH下で吸着するタンパク質を質量分析で網羅的に検出した。検出した吸着タンパク質の中に、アスベスト・タルクによる卵巣の発がんリスクが特に大きいとされる生殖年齢女性の骨盤内で周期的に増加する特定のタンパク質(X)が含まれていたため、これに着目した。動物実験および細胞実験の結果、アスベスト・タルク曝露で惹起される曝露卵巣・細胞におけるDNAの二本鎖切断が、X吸着後の曝露でさらに増加することが示された。これは、Xの吸着がアスベストおよびタルクの発がん性を増強する因子である可能性を示唆している。 このほか、研究を効率的に進めるため卵巣発がんに関わる癌抑制遺伝子であるBRCA2の変異モデルラットを作成・樹立した。このモデルでは雌雄ともにヘテロ接合体変異で生殖能が低下することを見出している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに、網羅的解析による吸着物質の評価が進められ、さらに特定のタンパク質を吸着することでアスベスト・タルクが曝露細胞・曝露組織に及ぼす遺伝毒性が増大することを確認している。 また、次年度以降の計画である「吸着性の調整による安全性の改善」に関わる検討として、アスベスト・タルクの吸着性を規定していると考えられる因子についてもデータを集めつつある。
|
Strategy for Future Research Activity |
現在評価中の具体的なタンパク質の吸着で惹起される遺伝毒性について、より詳細な分子細胞学的な機序を細胞実験、動物実験を通し評価する。また、当初の予定で掲げていた通り、細胞外小胞の吸着性とその生体への影響に関する検討を行う。 さらに、安全なナノマテリアルの開発・運用に貢献できるよう、吸着性を規定している因子へのマテリアル修飾などによる介入を行い、生体反応に及ぼす影響を評価する。
|
Causes of Carryover |
オープンアクセスの雑誌への投稿料にあてることを想定し温存していたものの、年度内のアクセプトに達しなかったため次年度使用額が生じた。次年度の研究費および論文の掲載費に使用する予定である。
|