2023 Fiscal Year Research-status Report
Proposal of a high-throughput 3D culture system and novel resistance mechanisms of oral cancer
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23K09317
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Research Institution | Kyushu Dental College |
Principal Investigator |
西牟田 文香 九州歯科大学, 歯学部, 助教 (20808406)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 口腔がん / スフェロイド / がん幹細胞 / persister |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者らは、組織内で微小環境を形成するがん細胞の形態学的・遺伝学的特性の維持のため、従来の低接着性プレートでは困難な、均一かつ大量のスフェロイドを作製可能なポリエチレングリコール修飾マイクロウェルデバイスを開発した。開発したデバイスで培養した口腔がん細胞株(HSC-3細胞とCa9-22細胞)は、24-48時間以内に凝集し、1ウェルあたり1個のスフェロイドを形成した。スフェロイドの球状と平滑な表面は培養5日間まで維持され、スフェロイドを構成する細胞のほとんどがカルセインAM陽性の生存細胞であり、死細胞はほとんど検出されなかった。興味深いことに、がん幹細胞マーカー(Cd44、Oct4、Nanog、Sox2)のmRNA発現は、単層培養よりもスフェロイド細胞の方が有意に高かった。免疫組織学染色では、CSCマーカー陽性細胞は、スフェロイド全体に観察された。さらに、スフェロイド培養細胞では、シスプラチンに対する抵抗性が単層培養細胞に比べて増強していた。また、スフェロイドを接着性プレートに再播種し、outgrowthさせたHSC-3細胞およびCa9-22細胞では、いくつかのがん幹細胞マーカー遺伝子の発現上昇が維持されたいた。ヌードマウス移植モデルでは、スフェロイド移植群の腫瘍増殖は、単層培養群と同等であった。これらの結果から、開発したスフェロイド培養系が、口腔がん細胞から均一ながん幹細胞を大量に産生するためのハイスループットなツールである可能性を示唆された。 さらに、作製されたスフェロイド内の抗がん剤抵抗性の獲得機序として、幹細胞性に加え、ゲノム編集を行わない休眠状態の細胞集団であるpersisterがん細胞の誘導に着目し、その分子機構の解明に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書の記載通り、スフェロイド細胞における幹細胞性亢進の機序解明を主要な課題として研究を遂行した。real-time RT-qPCR解析で確認されたスフェロイド培養群におけるがん幹細胞マーカー発現亢進細胞の局在評価のため、免疫組織染色を行い、幹細胞マーカー陽性細胞がスフェロイド内に均一に存在することを証明した。この結果から、スフェロイド内の低酸素環境が、口腔がん細胞における幹細胞性の獲得に重要な因子ではなく、細胞外マトリックスや、スフェロイド構成細胞が産生するサイトカイン、ケモカイン、増殖因子によって構築される微小環境、および細胞間相互作用から生じるシグナル応答が関与している可能性が考察された。 また、ヌードマウスに対するin vivo異種移植モデルを用いて、HSC-3細胞の腫瘍形成能を比較した。ヌードマウスにおいて単層培養群とスフェロイド培養群の両群でHCE-3細胞は、腫瘍形成能を示した。スフェロイド移植群における腫瘍増殖率は、2次元培養群と同程度であり、摘出した腫瘍に対する組織学的な評価結果からも、培養方法の違いによる変化は見られなかった。スフェロイド移植群で顕著な特徴が確認できなかった理由として、過去の報告よりも移植した細胞数が多いこと、および移植部位の違いに起因する可能性が考えられる。スフェロイドの移植によって形成された腫瘍は、シスプラチン投与に対する抵抗性が増加することも報告されているため、スフェロイド移植後に形成された腫瘍におけるがん幹細胞マーカーの発現と化学療法に対する感受性を調べる実験に取り組んでいる。 上記の研究成果については、成果を取りまとめ、英文誌へ投稿し、受理されている。こうした点から、本申請研究の進捗は概ね順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
課題1 スフェロイド細胞における幹細胞性亢進の機序解明:スフェロイド内部には構成細胞由来のマトリックスネットワークが構築され、その主要構成成分である糖鎖によるシグナルが細胞特性を制御するという仮説のもと研究を行う。幹細胞性を制御し、その破綻ががん発生の要因となるHippo-YAP/TAZシグナルに着目し、スフェロイド内の口腔がん細胞における各分子群の活性化レベルを評価する。さらに、がん幹細胞の存在に加え、オートファジー、上皮間葉転換、代謝リプログラミングなど、さまざまな生物学的プロセスが化学療法に対する抵抗性に寄与することが示されている。開発したスフェロイド培養系において、これらの生物学的プロセスの分子機構の解明も遂行する。また、HCS-3細胞やCa9-22細胞以外の口腔がん細胞に加え、エナメル上皮腫や唾液腺がんなどその他の口腔領域の腫瘍についてもスフェロイド培養系を構築し、その特性を分子生物学的に評価する。 課題2 口腔がん細胞persister化の分子機構の解明:すでに確立しているHSC-3細胞に加えて、複数の口腔がん細胞株についても、persister化の最適化条件を検討する。なお、persister化の証明は、抗がん剤投与後の細胞生存と再増殖後の抗がん剤に対する感受性を指標に確認する。さらに、樹立したpersister細胞について、RNA-seqによる遺伝子発現解析と新規転写産物を検出する。Parental細胞およびpersister化から再増殖後の細胞の結果と比較し、口腔がん細胞のpersister化に関与する候補因子を探索する。候補因子の発現量は、real-time RT-qPCR法で確認し、絞り込みを行う。
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Causes of Carryover |
想定よりも研究課題の1つである「スフェロイド細胞における幹細胞性亢進の機序解明」に関する研究の進捗が早く、有用な研究データが数多く収集できたため、同課題を優先して研究を遂行した。結果、十分な研究成果が得られ、R6年度に計画していた英文誌への投稿を今年度に行い、受理に至った。そのため、予定していなかった英文校正や論文掲載に係る費用を支出することとなった。結果、一部の消耗品の購入予定を変更することとなり、わずかではあるが残額が生じた。 なお、生じた次年度使用額については、もう1つの研究課題である「口腔がん細胞persister化の分子機構の解明」に関する研究を遂行する上で、必要な消耗品の購入に使用する予定である。
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