2023 Fiscal Year Research-status Report
バーニングマウス症候群におけるドパミン神経回路をターゲットとした新規治療法の開発
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23K09364
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
野間 昇 日本大学, 歯学部, 教授 (70386100)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | バーニングマウス症候群 / CPM / temporal summation / POMS2 |
Outline of Annual Research Achievements |
バーニングマウス症候群(BMS)は舌や歯肉,口蓋粘膜等に器質的な障害が認められないにもかかわらず慢性的な疼痛や違和感を訴える歯科固有の疾患である。これまでの研究において、BMSは下降性疼痛抑制機能の欠如が示唆されている。また、大脳における侵害情報経路には、痛みの情動的側面に関与する内側系と痛みの感覚的側面に関与する外側系があり、BMSはこれらの経路の異常も示唆されている。本研究では、BMS患者と健常者を対象にconditioned pain modulation (CPM)効果と身体疾患をもつ人々の精神面の変化などを評価するPOMS2を用いて、気分尺度について観察した。女性BMS患者18名(平均60.22 ± 3.64歳)と女性コントロール群17名(平均58.17±2.51歳)を対象に右側下口唇に表皮内電気刺激(IES)を用いて、テスト刺激を行った。条件刺激としては、左側手掌にペルチェ素子を用いて非侵害性(40℃)および侵害性温度条件刺激(47℃)を加え、CPMを検討した。口唇部のテスト刺激に対する主観的評価は単発および10回連続刺激後に行い、単発刺激時のvisual analogue scaleと10回連続刺激後のVASの差をもって、temporalsummationを算出した。条件刺激終了直後に、VASを用いて主観的評価を測定し、CPMの評価を行った。結果として侵害刺激下のCPM効果は、コントロール群と比較しBMS群では有意に少なかった。POMS2では、女性コントロール群に比べBMS患者で各項目において有意差を認めた。POMS2の総合的気分状態を評価できるTMD得点においても有意差を認めた。結論としてBMS患者は下降性疼痛抑制が欠如している可能性を示している。また、慢性痛の患者では、痛みの強さにより心理的側面に影響を及ぼすことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
BMS患者のリクルート後、CPM、TS検査を施行し当初計画した人数よりも約10名の患者が脱落した。研究遂行に関して、日本大学歯学部付属病院でのサンプル収集のためのさらなるリクルート方法を模索している。健康被検者に関してはリクルート病院内での掲示などを予定している。以上の理由から、BMS患者のリクルートが叶わなかったため、慢性口腔顔面痛患者からtemporalsummationの評価を行った。詳細としては中枢性感作のスクリーニングツールとして使用されるCentral SensitizationInventory(CSI)を用い,咀嚼筋筋膜痛症候群患者の病悩期間[亜慢性期(Subchronic),慢性期(Chronic)]を分けて咀嚼筋と前腕部における圧痛閾値(PPT)およびtemporal summation of painと中枢性感作の関連性について比較検討した。咀嚼筋筋膜痛を訴える患者23名(女性20名,男性3名:平均51.0±17.6)のうち、病悩期間が6か月未満であるSubchronic群12名(女性9名,男性3名:平均49.8±17.5)と6か月以上のChronic群11名(女性11名:平均52.1±17.6),およびControl群22名(女性18名,男性4名:平均42.8±15.8)の3群を対象とした。Subchronic群,Chronic群は双方ともにControl群と比較してCSIスコアが有意に高値であった。Subchronic群のCSIスコアが高い一方で,Chronic群のPPTが低下していることから,経時的に中枢性感作が先行したのち,局所の誘発痛が増強される可能性を示唆している。以上、BMSと慢性口腔顔面痛患者における初年度の心境状況は概ね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
脳connectomeの変化(扁桃体―側坐核)に伴う心理社会的要因の影響を調べる。Voxel Based Morphometry(VBM)機能を用いてBMS被験者と健常者の脳体積変化があるか比較検討する。VBM により、被験者の脳の健常者に比較しBMS群のincreaseと decreaseした部位を抽出する。次に、各被験者に安静時機能的MRI(rsfMRI)を撮像する。得られた画像データをfunctional connectivity toolbox(CONN18a)を用い、Seed-based correlationsによる解析を行う。解析因子として、中枢感作指標(CSI)、病悩期間、年齢、心理社会的要因、疼痛強度を設定する。心理社会的要因は、生活障害度:Pain Disability Assessment Scale(以下、PDAS)、不安・抑 う つ:Hospital Anxiety and Depression scale(以下、HADS 不安、HADS 抑うつ)、破局的思考:Pain Catastrophizing Scale(以下、PCS)、自己効 力感:Pain Self-Efficacy Questionnaire(以 下、PSEQ)を用いて評価する。以上より、脳connectomeの変化に伴う心理社会的要因がどのように影響しているかを調べる予定である。
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Causes of Carryover |
現在までの進捗状況の項で記載したが、当病院の対象であるBMS患者の受診率が悪く、CPM、TSのデータが不足している。また健常被検者のデータ採取は概ね予算計画は順調に推移している。それに伴い、電気刺激装置の備品の購入が予定通り到達しなかった。次年度の使用計画としては、まず、患者リクルートを強化するためにオンライン広告やリモート説明会の実施を考慮に入れる。さらに、地域医療機関との連携を強化し、紹介患者を増やすためのネットワークを構築する。また、データ収集の効率化を図るために、モバイルアプリを用いたリモート測定の導入を検討する予定である。これにより、患者が自宅で測定を行えるようにし、来院のハードルを下げることが可能と考える。これらの取り組みを通じて、必要な症例数を確保し、計画通りに研究を進めることを目指す。
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