2023 Fiscal Year Research-status Report
Construction of individualized risk evaluation system for chemicals based on the variability of xenobiotic metabolizing enzymes
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23K09659
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Research Institution | Yokohama College of Pharmacy |
Principal Investigator |
埴岡 伸光 横浜薬科大学, 薬学部, 教授 (70228518)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
齋藤 啓太 就実大学, 薬学部, 准教授 (30454854)
長岡 憲次郎 松山大学, 薬学部, 講師 (40752374)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 化学物質 / オーダーメイド型リスク評価システム / 異物代謝酵素 / フタル酸ジブチル(DBP) / フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、異物代謝酵素の多様性(異物代謝能の個人差)に基づき、オーダーメイド化した化学物質のリスク評価システムを構築することである。本年度は、シックハウス症候群の原因となり、また内分泌かく乱を惹起する可能性が示唆されているフタル酸ジブチル(DBP)およびフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)に着目し、ヒトおけるこれらフタル酸エステル類の加水分解反応についてin vitro系で検討した。 本課題では、ヒトの肝臓、小腸、腎臓および肺から調製されたミクロゾームおよびサイトゾル画分ならびに組換えカルボキシエステラーゼ(CES)のDBPおよびDEHPの加水分解活性を測定し、速度論的解析を行った。DBP加水分解反応のVmax値は、ミクロゾーム画分では肝臓 > 小腸 > 腎臓 > 肺、サイトゾル画分では肝臓 > 小腸 > 肺 > 腎臓であった。CLint値は、ミクロソームおよびサイトゾル画分のいずれにおいても小腸 > 肝臓 > 腎臓 > 肺であった。DEHP加水分解反応のVmaxおよびCLint/CLmax 値は、ミクロソームおよびサイトゾル画分のいずれにおいても小腸 > 肝臓 > 腎臓 > 肺であった。 組換えCESでは、DBP加水分解反応のVmax値は、CES1 > CES2 であったが、CLmax値は、CES2 > CES1であった。一方、DEHP加水分解反応のVmaxおよびCLmax値は、CES2 > CES1であった。 これらの結果より、DBPおよびDEHPの加水分解反応の顕著な臓器依存性は、肝臓、小腸、腎臓および肺におけるCESの発現に起因し、CESがフタル酸エステル類の代謝活性化に関与していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、モデル化学物質として、シックハウス症候群の原因となり、また内分泌かく乱を惹起する可能性が示唆されているDBPおよびDEHPに着目した。異物代謝酵素源としてヒトの肝臓、小腸、腎臓および肺から調製されたミクロゾームおよびサイトゾル画分ならびに組換えCES酵素を用いた。これら異物代謝酵素源は、DBPやDEHPなどのフタル酸エステル類に対して、解毒化および活性化の両生物活性を有すること、および加水分解反応に関与する酵素には分子的および機能的多様があることに基づいている。 DBPおよびDEHPの肝臓、小腸、腎臓および肺における加水分解反応のプロファイルは臓器間で大きく異なることを速度論的解析により明らかにした。これらの結果は、DBPおよびDEHPの毒性発現の程度は、曝露経路により異なることを示唆するものであり、フタル酸エステル類のリスク評価には加水分解酵素の多様性(発現の臓器分布性、活性の個人差など)を考慮して行わなければならないことを実証した。この成果は、国内の衛生薬学分野の学会で発表するとともに、分子毒性学領域の国際誌(査読有り)に論文投稿し、受理および掲載された。従って、本年度の検討およびの成果は、当初の計画を概ね達成し、順調に進展しているものと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
反応性の難燃剤として使用されている内分泌かく乱作用を有することが報告されているビスフェノールA(BPA)のハロゲン化誘導体のテトラブロモビスフェノールA(TBBPA)およびテトラクロロビスフェノールA(TCBPA)をモデル化学物質とする。TBBPAおよびTCBPAのグルクロン酸抱合反応(解毒的代謝)の種差およびヒトにおける関与する主要なUDP-グルクロン酸転移酵素(UGT)を明らかにするために以下の検討を行う。 (1)TBBPAおよびTCBPAのグルクロン酸抱合反応の種差:ヒトおよび実験動物(非齧歯類:サル、イヌ、ミニブタ;齧歯類:ラット、マウス、ハムスター)の肝臓および小腸のミクロゾーム画分における種々の濃度のTBBPAおよびTCBPAに対するグルクロン酸抱合活性を測定する。それぞれの動物種の速度論的パラメーター(Km、Vmax、CLint)を算出し、肝臓と小腸におけるTBBPAおよびTCBPAのグルクロン酸抱合能の程度を明らかにする。 (2)TBBPAおよびTCBPAのグルクロン酸抱合反応に関与するUGTの同定:組換えUGT(13分子種)を用いてTBBPAおよびTCBPAに対するグルクロン酸抱合活性を測定す。高い活性を示した分子種については、さらに速度論的解析を行い、速度論的パラメーター(Km、Vmax、CLint)を算出してTBBPAおよびTCBPAに対する親和性および解毒能を予測する。 (3)上記の検討から得られたデータとこれまでに報告されているTBBPAおよびTCBPAの環境中濃度、実験動物における毒性データならびに疫学研究の結果と比較し、ハロゲン化BPAのリスク評価モデルの構築を試みる。
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Causes of Carryover |
本年度は、ヒトにおけるDBPおよびDEHPの加水分解反応の臓器特異性を検討するために、ヒト由来の肝臓、小腸、腎臓および肺から調製されたミクロゾームおよびサイトゾル画分ならびに組換えカルボキシエステラーゼ(CES)を異物代謝酵素源に用いた。DBPおよびDEHPのそれぞれの加水分解物のフタル酸モノチル(MBP)およびフタル酸モノ(2-エチルヘキシル)(MEHP)の生成量は、HPLCにより測定した。本研究課題におけるヒトの臓器のミクロゾームおよびサイトゾル画分ならびに組換え異物代謝酵素は高額であり、研究費全体に対するこれら異物代謝酵素源が占める経費の割合は大きい。予備検討においてMBPおよびMEHPのHPLCの高感度定量法を確立することができ、DBPおよびDEHPの代謝反応系に添加する異物代謝酵素源を当初計画の約20%のタンパク質量で研究を遂行することができた。そのため、研究経費に残額が生じ、次年度に繰り越す計画に変更した。繰り越し分は、次年度に計画しているハロゲン化BPAのグルクロン酸抱合反応をより詳細に追及するために、ヒトおよび実験動物(6種)の肝臓および小腸のミクロゾーム画分ならびに組換えUGT酵素(13分子種)の酵素源の購入に充てる。
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Research Products
(6 results)