2023 Fiscal Year Research-status Report
骨格筋と脂肪組織の臓器連関に着目した糖尿病に対する新規予防・治療法開発
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23K10545
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Research Institution | Nihon Fukushi University |
Principal Investigator |
岩田 全広 日本福祉大学, 健康科学部, 教授 (60448264)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤原 光宏 豊橋創造大学, 保健医療学部, 助教 (20880412)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 糖尿病 / 骨格筋 / 脂肪組織 / 臓器連関 / インスリン抵抗性 / 糖・脂質代謝異常 / 電気刺激 / ビタミンD |
Outline of Annual Research Achievements |
有酸素運動やレジスタンス運動は,2型糖尿病にみられるインスリン抵抗性を基盤とする糖・脂質代謝異常の改善や進行予防に有効であるが,臨床で遭遇する患者の中には,過度の肥満症や整形外科疾患,糖尿病性または心血管系合併症などの臓器障害によって運動制限を有する者も多く存在するため,その代償となる治療法の早期開発が求められている。 本研究課題では,電気という物理的刺激と脂溶性ビタミンに対する筋細胞応答に着目し,電気刺激またはビタミンD投与がインスリン抵抗性とそれに伴う糖・脂質代謝異常の進行過程に及ぼす影響とその作用機序の解明を行い,電気刺激とビタミンD投与を組み合わせた治療介入が,インスリン作用不足による骨格筋タンパク質合成能の低下と酸化ストレスの産生増大による脂肪組織機能の異常を相加的に改善することで,より効果的かつ効率的に糖尿病態を改善するのではないかといった仮説を検証することが目的である。 2023年度は,高脂肪食を給餌することで全身のインスリン抵抗性を惹起させた高脂肪食負荷モデル動物を用いて,骨格筋経皮的電気刺激が血中乳酸値,血中transforming growth factor-β(TGF-β)2値,白色脂肪組織および褐色脂肪組織のTGF-β2発現量に及ぼす影響を検討した。その結果,(1)1回の骨格筋経皮的電気刺激前・後で血中乳酸値が有意に増加すること,(2)この骨格筋経皮的電気刺激を7日間(毎日)行うとインスリン抵抗性が改善すると同時に,(3)血中TGF-β2値および白色脂肪組織のTGF-β2 mRNA発現量が有意に増加するが,(4)褐色脂肪組織のTGF-β2 mRNA発現量は増加しないことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでに申請者は,電気という物理的刺激に対する筋細胞応答に着目し,電気刺激誘発性の筋収縮活動が,骨格筋を起点とする脂肪組織との臓器連関を介してインスリン抵抗性を改善することを明らかにしてきた。本研究では,その成果を発展させ,電気刺激とビタミンD投与を組み合わせた新しい治療介入が,インスリン抵抗性とそれに伴う骨格筋および脂肪組織の糖・脂質代謝異常の進行過程に及ぼす影響を検討することを目的としている。 今回,ヒトの2型糖尿病の特徴である肥満からインスリン抵抗性を基盤とする糖・脂質代謝異常が生じ,糖尿病を発症する高脂肪食負荷モデル動物のインスリン抵抗性が,骨格筋経皮的電気刺激を繰り返し行うことでほぼ完全に改善されることや,その作用機序のひとつとして,骨格筋経皮的電気刺激は,乳酸-TGF-β2シグナル伝達軸を介した骨格筋と脂肪との組織間クロストークを通じて,全身のインスリン抵抗性を改善する可能性を確認することができた。 以上の検証は,動物実験に基づくものであるが,その成果は糖尿病態を改善させ得る運動介入以外の新たな治療法の開発につながる基礎的資料を提供することができるであり,2型糖尿病の効果的な運動療法の在り方にも示唆を与えることができると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施計画に大きな変更はない。研究実施計画に基づき,今後はモデル動物を用いた追加実験を行うとともに,ビタミンD投与の単独効果または電気刺激との併用効果を検討していく予定である。次いで培養細胞実験では,骨格筋細胞と脂肪細胞を共培養し,電気刺激,ビタミンD投与,または両ツールを組み合わせた介入を実施する。これによって,電気刺激およびビタミンD投与が糖・脂質代謝異常に及ぼす直接的な作用と,骨格筋と脂肪細胞の臓器間クロストークを介した間接的な作用の,2つの側面から糖尿病態を改善する機序を解明していきたい。
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Causes of Carryover |
本研究課題を遂行するには,培養細胞に電気刺激を負荷する際に使用する筋細胞電気刺激培養装置(IonOptix社製,C-Pace EM Culture Stimulation System)が必要であり,2023年度に購入する予定で研究実施計画を立案していた。しかしながら,昨今の円安・物価高騰に伴い,研究計画調書を作成した当初よりも当該機器の価格が上昇し,2023年度の交付申請額では購入できなくなってしまった。そのため,当該機器の購入に係る不足金額について前倒し支払請求した。 今後の研究の推進方策で述べたように,2024年度は実験動物と培養細胞を用いるため,動物飼育や細胞培養などに必要となる消耗品の購入経費が必要となる。また,各実験終了後には生化学的検索と分子生物学的検索を各種抗体や試薬,測定キットを用いて実施する。そのため,これらの購入経費が必要となる。 実験技術の一部の協力・支援を早稲田大学,日本体育大学,豊橋創造大学の研究者に依頼しており,出張旅費が必要である。また,情報収集や成果発表のため,国内外の関連学会に参加を予定しており,その旅費が必要である。なお,旅費は公共交通機関利用,宿泊費を含んでいる。本研究に関する情報収集に伴い,会議費や印刷費が必要となる。また,成果発表に際しては,英文校閲料および投稿料が必要である。そのため,これらの費用が必要となる。
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[Journal Article] Acute and prolonged effects of 300 sec of static, dynamic, and combined stretching on flexibility and muscle force2023
Author(s)
Shingo Matsuo, Masahiro Iwata, Manabu Miyazaki, Taizan Fukaya, Eiji Yamanaka, Kentaro Nagata, Wakako Tsuchida, Yuji Asai, Shigeyuki Suzuki
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Journal Title
Journal of Sports Science and Medicine
Volume: 22
Pages: 626-636
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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