2023 Fiscal Year Research-status Report
成体脳新生ニューロン成熟促進エフェクター因子の同定と分子機構の解明
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23K10962
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Research Institution | Nagasaki University |
Principal Investigator |
下崎 康治 長崎大学, 医歯薬学総合研究科(医歯薬学総合研究系), 講師 (40379540)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 成体脳神経幹細胞 / REV-ERB / REV-ERBリガンド / SR9009 / 新生ニューロン / エクソソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
REV-ERB遺伝子の生理的な機能役割を明らかにするため、まず成体マウス脳におけるREV-ERBタンパク質の発現パターンを解析し、さらにニューロン新生過程におけるREV-ERBタンパク質の機能解析を行った。次に成体ラット脳由来の培養神経幹細胞を用いて、REV-ERBリガンド化合物SR9009の最適化条件を探索した。
REV-ERBの発現解析では、成体マウス脳、特に海馬領域におけるタンパク質の発現パターンを詳細に調べたが、培養神経幹細胞とは異なる発現パターンを示すことが明らかになった。このことから、REV-ERBはin vivoにおいて独自の機能を有していることが示唆された。次に、REV-ERBのドミナントネガティブ体のin vivoにおける役割を解析した。その結果、REV-ERBのドミナントネガティブ体が新生ニューロンの樹状突起の成長に影響を与えることを確認した。このことから、REV-ERBはニューロン新生過程においてin vivoでも重要な役割を果たしていると考えられる。詳細なメカニズムを明らかにするため、現在さらに解析を進めている。また、研究代表者が独自に樹立した成体ラット脳由来の神経前駆細胞を保管していたディープフリーザーが故障し、ストックサンプルが融解してしまったため、新たに高効率にニューロン分化できる培養神経幹細胞ラインを親株から改めて樹立することに成功した。この細胞ラインを用い、複数のメーカーから購入したSR9009による様々な培養条件での神経分化誘導を行いSR9009のニューロン分化誘導の最適化を試みた。その際、Sez9とDcxの定量PCR法による遺伝子発現量比によって、新たに神経分化ステージを定量することに成功した。この結果はSR9009の活性評価に有用であり、今後の新生ニューロン分化成熟因子の探索に役立つと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が現在のところおおむね順調に進展している理由として、以下の点が挙げられる。
1. 研究計画の綿密な策定:研究開始前に、研究の目的、方法、期待される結果、および予想される問題点について十分に検討し、綿密な研究計画を策定した。この計画に沿って研究を進めることで、効率的かつ効果的に研究を進めることができている。2. 適切な実験手法の選択:本研究では、REV-ERBの機能解析や神経分化誘導因子の探索において、最新の実験手法を採用している。例えば、定量PCRによる遺伝子発現量の比較は、信頼性が高く、再現性のある結果を得ることができる。適切な実験手法を選択することで、研究の質を高く保つことができている。3. 柔軟な研究体制:研究の過程で予期せぬ問題が発生した場合にも、柔軟に対応できる研究体制を整えている。例えば、ディープフリーザーの故障によるサンプルの融解という問題に対しては、速やかに新たな細胞ラインの樹立に着手し、研究の継続性を担保した。4. 定期的な進捗確認と結果の評価:研究の進捗状況を定期的に確認し、得られた結果を適切に評価することで、研究の方向性を適宜修正している。これにより、研究の質を高く保ちつつ、効率的に研究を進めることができている。
以上の点から、本研究が現在のところおおむね順調に進展していると評価できる。今後も、これらの点を継続的に実践・改善することで、研究の質を高く保ちつつ、着実に研究を進展させていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究ではこれまでの研究成果を基盤として、以下の3点を中心に研究を推進していく。
1. ドミナントネガティブ体の毒性検査(細胞死検定):REV-ERBのドミナントネガティブ体が神経新生に与える影響をより詳細に解析するために、ドミナントネガティブ体の毒性検査を行う。具体的には、細胞死検定により、ドミナントネガティブ体が神経細胞の生存に与える影響を評価する。この結果は、REV-ERBとそのドミナントネガティブ体の作用機序の理解に役立つと期待される。2. ドミナントネガティブ体の新生ニューロンの樹状突起への影響:REV-ERBのドミナントネガティブ体が新生ニューロンの樹状突起の成長に与える影響をより詳細に解析する。具体的には、形態学的解析により、樹状突起の長さ、分岐数、シナプス数などを定量的に評価し、樹状突起の成熟度を評価する。これらの結果は、REV-ERBのニューロン新生における生理的な役割の理解につながると考えられる。3. 培養神経幹細胞の神経誘導におけるエクソソームの網羅的解析と細胞内遺伝子変化の解析:新生ニューロン分化成熟誘導因子の探索をより効率的に進めるために、培養神経幹細胞のニューロン分化成熟誘導におけるエクソソームの網羅的解析と細胞内遺伝子変化の解析を行う。具体的には、次世代シーケンサーを用いたRNA-seqにより、エクソソームに含まれるmRNAやmiRNAの網羅的解析を行う。これらの結果は、新生ニューロン分化成熟誘導因子の新規同定や作用機序の理解につながると想定している。
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Causes of Carryover |
研究の進展において予期せぬ問題が発生したため、研究ストラテジーの一部を変更した。本年度は次年度に予定していた網羅的遺伝子解析システムの一部立ち上げを優先した。具体的には、研究代表者が独自に培養樹立した成体ラット脳由来の神経前駆細胞を保管していたディープフリーザーが故障し、ストックサンプルが融解してしまったため、研究に使用できなくなってしまった。この問題に対処するために、新たに高効率にニューロン分化できる培養神経幹細胞ラインを親株から樹立することに時間と労力を割くこととなった。この予期せぬ問題への対処により、当初の計画から研究の進展がずれることとなったが、新たに樹立した培養神経幹細胞ラインは、今後のエクソソームと遺伝子解析に十分使用可能であると考えている。次年度使用額は、主に以下の項目に使用する予定である。1. 新たに樹立した培養神経幹細胞ラインの維持・管理に必要な消耗品、試薬等の購入、2. エクソソームの単離、解析に必要な試薬、キット等の購入、3. 遺伝子発現解析に必要な試薬、チップ等の購入
これらの項目に次年度使用額を充当することで、新たに樹立した培養神経幹細胞ラインを活用しつつ、当初の計画であるエクソソームと遺伝子解析を効果的に進めていく。
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