2023 Fiscal Year Research-status Report
Construction of an analysis method of the geographical origin for unidentified individuals by stable isotope ratio mapping in Japan and East Asian countries
Project/Area Number |
23K11394
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Research Institution | Iwate Medical University |
Principal Investigator |
熊谷 章子 岩手医科大学, 歯学部, 特任教授 (10286594)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 安定同位体 / 硬組織 / 個人識別 / 日本人 / 法医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
身元不詳扱いにて法医解剖を実施した東京都から岩手県北への移住者(60代男性)と、その対照として岩手県北永住者(60代男性)の硬組織試料(上腕骨外側、肋骨、犬歯エナメル質)を採取、それぞれのδ18Oとδ13Cを測定した。その結果から本研究目的に有効と考えられる試料について87Sr/86Srと207Pb/206Pbの測定を追加した(分析委託:昭光サイエンス株式会社、株式会社地球科学研究所)。 分析の結果、東京都から岩手県北への移住者のδ18O値は上腕骨、肋骨、犬歯それぞれ-8.37、-9.10、-8.11、δ13C値は-14.5、-15.5、-13.1だったのに対し、岩手県北永住者のδ18O値はそれぞれ-7.45、-7.91、-7.70、δ13C値は-13.7、-14.7、-12.6であった。歯よりも骨試料の測定値に移住者と永住者の差を認めたことから、上腕骨について測定項目を追加したところ、岩手県北への移住者の87Sr/86Srは0.708、207Pb/206Pbは0.860、岩手県北永住者の87Sr/86Srは0.709、207Pb/206Pbは0.858で、δ18Oやδ13Cよりも両者間に明らかな差は確認できなかった。したがって硬組織でも骨のδ18O値に生前居住地による差を認める可能性が示唆された。 これらの結果と対象者の生前居住地環境試料との整合生を確認するため、岩手県北地域と東京23区内の土壌と水道水の安定同位体比を分析したが、その結果にはバラつきが生じたため、環境試料採取や保存方法については再検討を要する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本人硬組織試料の収集とその生前居住地の環境試料収集は順調に実施できている。 本研究で仮定された、日本人硬組織の安定同位体比から生前居住地を推定できる可能性については、現時点では分析が完了した対象が限られているものの、その結果から明確に示すことができ、また対象とすべき硬組織試料とその安定同位体比項目の選択についても、おおよその見通しができている状況にある。 環境試料の安定同位体比分析結果にバラつきが生じているため、試料採取や保存については改めて検討する必要がある。 分析委託費の価格上昇のため、当初の計画より分析試料数が減少したが、本研究結果を導くにあたり大きな支障はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの分析結果から、エナメル質の安定同位体比は石灰化完了までの居住地を反映するとされている一方、緩やかな代謝を繰り返す骨にはヒトの人生における地理的移動がうかがえる可能性がある。現時点では極めて限られた地域の対象試料からの分析結果ではあるものの、更に対象数を増やすことで、ヒト硬組織試料と日本や東アジア諸国の環境試料の安定同位体比に関する調査結果との照合から、身元不詳者の生前居住地推定方法を導くための結果が得られることが示唆された。 今後はヒト対象試料として韓国人硬組織を収集し、環境試料と合わせて同様に分析を進める。環境試料は岩手県を中心に日本国内を網羅し、さらには東アジアの環境試料を収集し始める予定である。
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Causes of Carryover |
分析委託の価格変動のため、予定していた試料数を提出できなかったことによる端数である。次年度分析委託費として使用予定である。
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