2023 Fiscal Year Research-status Report
台湾の果物輸出をめぐる政治社会学的分析―政治要因の説明と制度要因による説明―
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23K11561
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Research Institution | The University of Kitakyushu |
Principal Investigator |
下野 寿子 北九州市立大学, 外国語学部, 教授 (40294607)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 柳橙(柳丁) / 果物輸出 / 行政院農業委員会 / 海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA) / 陳水扁政権 / 馬英九政権 / 中国市場 / 国共プラットフォーム |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、台湾が世界貿易機関(WTO)加盟から海峡両岸経済協力枠組協定(ECFA)締結に至る期間に、果物の対中輸出が中台政治関係の象徴になっていった理由があると判断し、その解明を試みた。問題設定の背景には、①台湾農業を歴史的に振り返ると、貿易自由化やWTO加盟によって影響を受けてきたこと、②2005年の国共党首会談後、中台政治の象徴的存在として台湾産果物の対中輸出が取り上げられるようになったこと、③果物が中台政治関係を象徴する存在になったことを示唆する諸現象については先行研究が指摘してきたが、果物が政治の場に持ち込まれることになった理由や経緯については指摘されてこなかったこと、④馬英九政権下で対中経済関係の拡大とともに果物の対中輸出が大きく伸びたこと、⑤台湾産果物の対中輸出について論じた先行研究は、台湾側のアクターとして政党、政治家、台商を取り上げたが、官僚の役割についてはほとんど論じてこなかった、といった問題意識がある。 論文「対中果物輸出をめぐる台湾の葛藤:WTO加盟からECFA締結前まで」では、WTO加盟による影響への対処の一環として中国市場への輸出が議論されていたこと、柳橙の豊作への対処に民進党政権が苦慮したこと、その後まもなく中国当局が台湾産果物の免税輸入を台商や国民党を通じて実施したこと、中国当局の対応は国共党首会談と前後しており、民進党政権に対する揺さぶりとなっていたこと、馬英九政権の下で柳橙の生産過剰が再発した時に中国当局が買いとりを約束したこと、中国側は買い取りを実施したものの中国企業は政府補助金と仕入れた台湾産柳橙の完売を目指して品質の高いものしか受け入れなかったこと、台湾産果物の現地での取り扱いは粗雑で、農業委員会は国共プラットフォームの後ろ盾が中国市場での円滑な販路拡大に直結するわけではないと理解したことを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
以下の状況に基づき、概ね順調に研究を遂行していると判断した。 資料収集については、主に国史館や国家図書館を活用し、一次資料や先行研究を順調に収集できた。日本の地方自治体の農産物輸出関係者と面談し、研究代表者が資料で読み取った果物貿易の特質や現状について正しく理解しているかを確認し、輸送や生産体制の技術的な課題や専門用語について理解を深めた。日本をベースにした教示であっても、グローバリゼーションの下で果物農家と生産地の地方政府が抱える課題は国境を越えて共通点が多く、また、台湾産果物輸出の特徴や課題を把握する上で参考になった。 分析視点については、台湾史や経済学といった異分野の識者との意見交換を行い、政治経済学や政治社会学を基本としながらも、歴史的な観点や地理的条件から台湾の特性に鑑みて考察することの重要性を認識した。こうした議論の延長として過去を振り返れば、単一市場または単一商品の輸出等、現在の対中果物輸出と類似のパターンがあることを確認できた。本研究は政治と制度との関係を問うことを目的としているが、政治的制約が輸出市場の選択に影響すること、過去にもそうした選択の積み重ねと制度構築があったことに留意して今後の研究を進めたい。 「研究実績の概要」に記した論文は、台湾政府の資料と中台双方の報道を精査した結果であり、多くの発見があった。断片的とはいえ、中国の台湾工作の進め方、中国側の官と民との間に齟齬があること、行政院農業委員会の中国観察について指摘できたことは、本研究課題の今後の展開に有益な成果であったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究では、WTOをグローバル志向、ECFAを中国市場志向の制度的枠組みと位置づけ、中台関係や台湾の二大政党による政治との関係性を果物貿易に限定して探求している。2023年度の研究はECFAに誘導していった政治や外部環境について論じ、部分的とはいえ、台湾の農業官僚の中国観察や、極めて限定された地域の過剰生産が政府を苦境に追い込む事態に発展する可能性を指摘した。これらを踏まえて、2024年度は、ECFAの先行研究整理に取り組み、ECFA締結の意義を確認し、その中で果物貿易がどのように扱われ、どの程度対中輸出が伸びたのか、統計や文献調査も加えて検討する。検討にあたり、特に以下2点に尽力する。①対中果物輸出が農業県に与える影響は生産物の種類や生産地ごとに異なることから、地域別のデータの収集に努める。②ECFA締結は生産者、農業委員会、農業県、主要政党の関係者にどのように受けとめられてきたのかを分析し、誰が受益者であったのか、また、制度と政治との関係がどのようであったのかについて検討する。
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Research Products
(1 results)