2023 Fiscal Year Research-status Report
歴史的造形資源の造形データの取得・保存・活用に基づく地域文化継承システムデザイン
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23K11721
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
植田 憲 千葉大学, デザイン・リサーチ・インスティテュート, 教授 (40344965)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | デザイン / 地域資源 / 地域振興 / 地方創生 / 文化財 / デジタル造形技術 / 歴史的造形資源 / 3D |
Outline of Annual Research Achievements |
今日「地方創生」が叫ばれるなか、それぞれの地域社会がいかに持続していくかが重要な社会課題となっている。そのためには、地域が有する多様な資源を、当該地域の生活者が認識・共有し、その活用を通して当該地域の生活文化を発展させつつ継承していくことが重要である。本研究は、デジタル造形技術の適用によるその方法論を、いくつかのデザイン実践を通して明確化することを目的としたものである。具体的には、地域社会における造形資源を対象として、その形態を2D/3Dデジタル造形技術を駆使してデジタル化し、かつ、それらを循環的に活用する実践を行い、ひいては、当該地域の生活者を中心とする人びとが主体となり生活文化を継承するシステムを導出することを目指している。 地域社会の生活者らによってそれぞれの地域社会において創出・継承されてきた造形資源を地域活性化に資する材(財)として認識・共有できるようデジタル化・アーカイブ化を行うとともに、デジタル造形機器を試験的に地域内に配置し活用を促すなど、生活者らがそれらに接する機会を創出し内発的地方創生が進展するシステムづくりを行う。 2023(令和5)年度にあっては、おおむね下記の活動を展開した。 ○取得・保存:市原歴史博物館らとの協働に基づく取得・保存(20件)、東京都墨田区との協働に基づく自然災害供養碑の取得・保存(1件)、同埋蔵文化財の取得・保存(40件) 他 ○活用:市原歴史博物館らとの協働に基づく活用(ワークショップ・展示:4件、触れる文化財グッズの開発・提案:6件)、東京慰霊協会との協働に基づく活用(触れる文化財グッズ開発・提案:2件)、東京都墨田区と協働に基づく活用(触れる埋蔵文化財の提案:1件、触れる文化財展示(於:千葉大学墨田サテライトキャンパス):1件)、万祝の型紙データの活用(ワークショップ:6件、グッズ開発・提案:1件) 他
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述した活動を通して、歴史的造形資源にデジタル造形技術を適用してその形状データを取得・保存するとともに、デザインの観点からその活用を図ることで、ややもすると現代社会において潜在する傾向にある歴史的造形資源が顕在化し広く共有され得ることが明確になりつつあるといえる。 本調査・研究は、当初は千葉県内を想定して活動を始めたが、千葉県内のみならず東京都墨田区における歴史的造形資源のデータ取得・保存・活用に関する調査・研究へと展開している。さらには、神奈川県川崎市を拠点とする一般社団法人 日本宮彫協会における活動が再開されるなど、コロナ禍後にあって、歴史的造形資源のデータ取得・保存・活用に関する調査・研究は、まさに広く展開しつつある。木彫などの歴史的造形資源については、その修復事業などにおいても、荒彫りまでをデジタルデータを用いたデジタル造形技術で支援する可能性も見出されつつある。 また、東京都墨田区ならびに千葉県市原市においては、歴史的造形資源の造形データの取得・保存・活用のサイクルの一部に福祉施設を巻き込み実践しつつある。また、東京都墨田区においては、公益財団法人 杉山検校遺徳顕彰会との協働にも展開しつつある。これらは、まさに、万人が歴史的造形資源、ひいては、文化財へアプローチする道筋をつくり、まさに、人びとが主体となり文化財の価値を高める活動が展開することを意味している。また、その意味では、ユニバーサルデザインの観点からの文化財の共有化への動きも生じつつある。 このように、デジタル造形技術を歴史的造形資源の取得・保存・活用の一連の活動に適用する試みが、社会において潜在しつつある文化財の顕在化に寄与することが明確になりつつあるといえる。今後はこうした知見を活用して、さらに、デジタル造形技術の活用の幅を広げ、最終的には、システムとしてパッケージ化することを目指したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の開始当初にあっては、主な対象地域を千葉県内とし、生活者の関心の及ばぬ内に潜在化が進む木彫・万祝等の造形資源を取り上げ多数のデザイン実践を行うものとした。しかしながら、本取り組みを実践するなかで、当初計画していた以上に研究協力者ならびに造形を擁する地域の生活者らからの反響が大きく、歴史的造形資源の2D/3Dデジタル造形データの取得そのものが地域活性化を促す活動につながり得ることが確認されるとともに、地域を超えた活動へと展開しつつある。当該地域のまさに地域資源の活用に基づく地域文化継承のサイクルがまさに胎動しつつあるといえる。 次年度にあっては、歴史的造形資源の2D/3Dデジタル造形データの取得ならびに保存・活用の活動を推進するとともに、これまでの実践において得られた共有のあり方に関する知見をさらに深めるべく、上記データの多様な活用に基づき地域活性化に資する有効な方策を見出していきたい。 引き続き、「歴史的造形資源の造形デジタルデータの取得」ならびに「歴史的造形資源のデジタルデータの利活用を含めた利点の明確化」に加え、「歴史的造形資源の2D/3Dの活用を踏まえたアーカイブの構築」「歴史的造形資源の共有のための効果的な活用のあり方の導出」について進めていくとともに、「地域資源活用に基づく生活文化継承システムの導出」を図っていく予定である。
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