2023 Fiscal Year Research-status Report
アメリカ合衆国の公共領域と宗教の研究 ―宗教右派の教育戦略―
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23K12020
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 清子 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 助教 (10816391)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 福音派 / ホームスクーリング / ジェンダー / インターネット / 宗教と文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本科研プロジェクト初年度である2023年度前半は、アメリカ合衆国における宗教右派のホームスクーリング(HS)運動についての基礎研究をすすめ、制度の実態の確認と代表的な福音派むけHS歴史教科書の分析を行った。 夏までの研究成果は、日本宗教学会第82回学術大会(東京外国語大学、9月9日)において、「アメリカ合衆国におけるホームスクーリングと宗教の動向」として発表した。米各州がそれぞれに制度を用意しているものの、全般的にいってHSが相当程度自由に選択できる実情をまとめるとともに、資料として入手した2種類の「キリスト教的」歴史教科書を分析し、共通する特徴とバリエーションを指摘した。 研究を進める中、HS運動を支える福音派の独自文化の重要性、そしてそのジェンダー規範――家庭の中心としての女性(母親)――が、インターネット上で情報発信を行うインフルエンサーの活動によって広く流通し、影響を広めている重要性が浮かび上がった。そのため年度後半には、HSの様子をYouTubeやSNSを通じて発信している女性たちに着目し、調査をすすめた。 男性と女性が異なる性役割を担うことこそが「聖書的」であるとの理解は福音派に広く共有されて力をもち、近年も複数の研究書が出されている。世俗的アメリカ文化から洗練された最新のスタイルを取り込みつつ、福音派独自の保守的ジェンダー規範と合致させ、家庭をあずかる女性(母親)がHSを行う「ライフスタイル」を、とくに女性視聴者に対し魅力的なものとして提示する手法が、現代福音派のHS拡大と、コミュニティ全体の活気を支えているのではないか、こうした見通しを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の目標であるHS制度全体像の把握と、代表的教科書の分析において、一定の進捗があったといえる。また、福音派独自のジェンダー規範や文化の重要性という、今後の研究を方向づける新たな発見を得ることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は当初計画では主にHS教材の分析を行う予定だった。今後も、既に入手した資料に加え、数を増やすかたちで分析を進めていく予定である。その一方、女性インフルエンサーによるHSを含むライフスタイルの発信という、福音派HS運動の重要な一側面が見えてきた。本研究の最大の関心――福音派が教育を通じてアメリカをどのように変革しようとしているのか――に迫るため、当初計画とはやや異なるが、これらの現象の把握と分析も、同時に進めていく予定である。
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