2023 Fiscal Year Research-status Report
19世紀の哲学教育論と戦後フランスの教育改革運動に関する思想史的研究
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23K12034
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
松田 智裕 立命館大学, 衣笠総合研究機構, 研究員 (00844177)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 哲学教育 / 国家と政治 / 哲学と女性 / 20世紀フランス哲学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、デリダをはじめ多くのフランスの大学・高校教員や学生が参加した「哲学教育研究グループ」(以下GREPH)の活動を取り上げ、そこで盛んに議論されていた「哲学と国家」「哲学と女性」といった諸問題の内実を19世紀フランスの哲学教育との関連から明らかにすることである。 この目的を達成するための土台づくりとして、2023年度は19世紀フランスの哲学教育に関する基礎文献の収集と研究に取り組んだ。具体的には、フランスの教育制度の確立に深く関わった19世紀の哲学者ヴィクトル・クザンおよび教育学者ガブリエル・コンパイレをとりあげ、クザンの『大学と哲学の擁護』(1844年)およびコンパイレの『16世紀以降のフランスにおける教育論の批判的歴史』(1904年)をはじめとする文献の研究を行った。その結果、哲学教育を国家の関心として位置づけるための梃子として人間の「自然本性(nature)」が語られ、それがコンパイレにおいて教育の主体としての男性と女性の自然本性として議論されていたことが浮き彫りとなった。こうした自然本性の問題はGREPHにおいても制度や技術との関連から議論されていたものであるため、この時期の「自然本性」をめぐる一連の議論が、20世紀の哲学教育論の重要な背景をなしていたのではないかという見通しを得ることができた。 また本研究と関連して、アランをはじめラシュリエやラニョーら19世紀後半の哲学者たちに多くの言及があるデリダの講義録『思考すること、それはノンと言うことである』(1960-1961年度)を翻訳出版することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画にあったデリダの未刊行資料の調査を目的としたフランス・カーンのIMEC訪問は2023年度中に実現することができなかったが、19世紀フランスの哲学教育に関する研究は本研究の土台となる見通しを得ることができたため、研究計画としては概ね順調に進んでいると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、今年度に行った19世紀フランスの哲学教育に関する研究を踏まえたうえで20世紀に目を転じ、GREPHにおける「哲学と国家」の問題に関する研究を行う。具体的には、デリダをはじめGREPHの活動に参加していた哲学者たちが、哲学教育を国家教育へと編成した19世紀という時代をどう評価していたのか、そしてこの時代に確立された諸制度とそれを裏から支えている「人間の自然本性」というイデオロギーをどのように検討したのかを整理する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、フランスのアーカイブ施設IMECを訪問してデリダの未刊行資料の閲覧を行うための旅費として使用する予定であったが、2023年度内に渡航することができなかっため、2024年度内にIMECを訪問し、未刊行資料の研究を行うための旅費として使用する。
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