2023 Fiscal Year Research-status Report
Sensationalism and Sentimentalism in Transbellum American Literature
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23K12121
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
細野 香里 慶應義塾大学, 文学部(日吉), 助教 (40906822)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 扇情小説 / 南北戦争 / 家庭性 / 領土拡張 / 奴隷制 / 扇情主義 / 米墨戦争 / 出版文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究実績は以下の3点に大別される。1点目は、扇情文学の書き手として知られるジョージ・リッパードによる都市人種暴動譚の分析である。フィラデルフィアでの局所的な人種暴動を主題としながらも、同時代の拡大主義と奴隷制を巡る政治的混迷を背景とする作品The Killers (1849)について分析を行い、その成果を日本語論文「欲望する都市からの予見――ジョージ・リッパードのフィラデルフィア人種暴動譚に見る1850年の妥協」としてまとめた。本作品の分析を通じ、リッパードの白人労働者問題と奴隷制廃止、拡張主義をめぐる諸問題についての姿勢が明らかになった。2点目は、マーク・トウェイン後期作品分析を通じた家庭小説ジャンルの再定義である。狭義の家庭小説の定義には当てはまらない未完の後期作品Which Was It?を家庭性の時代後の家庭小説として再解釈し口頭発表を行った。家庭小説は、19世紀中葉に隆盛した文学ジャンルで、長らくいわゆる古典文学作品より格下に位置するとされてきた作品群を指すという意味で、扇情小説ジャンルとの共通点を持つ。トウェイン作品をアンテベラム期に普及した文学様式の系譜に連なるものとして位置づける本発表の試みは、本研究の主眼である扇情小説としてのトウェイン作品の再解釈を行う布石となる。3点目として、アメリカ文学史における扇情主義的要素の通時的発展を検討するために、アメリカ扇情文学ジャンルの原形ともいわれるインディアン捕囚体験記のうち特にハナ・ダスタンの逸話が、19世紀白人男性作家によっていかに再話されてきたかについて考察を行い、この成果を日本語論文にまとめた。本論を通じ、扇情性がアメリカン・ルネサンスを代表するいわゆる古典作家たちの創作活動においても重要な要素となっていた可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた海外資料調査は「次年度理由が生じた理由と使用計画」において後述する通り、実施を見送った。しかしながら、「研究実績の概要」において示した通り、交付申請書の研究実施計画にて示した3つの研究課題(①ジョージ・リッパードの作品群における都市と帝国、②奴隷体験記における男性性と扇情主義・感傷主義の関わり、③マーク・トウェイン作品における扇情主義と白人男性表象)のうち、①と③の課題について、手持ちの文献や国内で入手可能な資料を用いて取り組み、その成果を論文や口頭発表を通じて発表することができている。「研究実績の概要」において示した3点の実績のうち、1点目の成果は日本語論文にまとめ「欲望する都市からの予見――ジョージ・リッパードのフィラデルフィア人種暴動譚に見る1850年の妥協」アメリカ学会発行『アメリカ研究』58号に掲載され、2点目については第95回日本英文学会全国大会にて「燃え落ちる家――世紀転換期のMark Twain と家庭性の悪夢」として口頭発表を行った。3点目の成果は、日本語論文「鉞を担いだ女の神話(再話)の系譜――ハナ・ダスタンとホーソーン、ホイッティア、ソロー」としてまとめ『英語英米文学』79号にて発表した。以上より、本研究はおおむね計画通りに進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、ジョージ・リッパードの米墨戦争関連の作品の分析を進めながら、関連する現地資料調査を行う計画である。また、並行して本年度は取り扱うことのできなかった研究課題②「奴隷体験記における男性性と扇情主義・感傷主義の関わり」に着手する。まずはウィリアム・W・ブラウンとフレデリック・ダグラスの奴隷体験記における感傷的・扇情的レトリックの効果の分析から始める予定である。加えてマーク・トウェイン作品における扇情性についての分析も継続して行う。まずは研究実績の2点目として挙げた口頭発表の内容の論文化から取り組むことを考えている。
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Causes of Carryover |
本研究課題申請後に生じた為替状況(円安)とアメリカ合衆国での物価上昇の継続のため当初の計画通りの予算配分で国外出張を実施することが困難であると判断し、同地で行う予定であった資料調査の実施を次年度に回すことにしたため。次年度は現地資料調査を実行するために予算を使用する計画である。
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Research Products
(3 results)