2023 Fiscal Year Research-status Report
翻訳者を可視化する:ヒエロニュムスを中心とした西洋古代の翻訳研究
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23K12148
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
加藤 哲平 九州大学, 言語文化研究院, 助教 (70839985)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | キリスト教 / オリゲネス / ヒエロニュムス / エレミヤ書説教 / 翻訳 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和5年度は、古代の翻訳作品を扱う本研究の中心的なテクストである、オリゲネスの『エレミヤ書説教』のギリシア語原典と、ヒエロニュムスによるラテン語訳を精読し、第1説教に関する日本語対訳を出版した。 第1説教は、エレミヤ書1:1-10を題材とした比較的長めの一作である。第1節から第16節まで、架空の論敵からの批判や質問に対してオリゲネスが応答する、ディアトリベーの形式が取られている。オリゲネスは寓意的解釈を活用しながら、エレミヤ書をキリスト教的に理解した議論を展開している。 日本語対訳では、ギリシア語からの日本語訳とラテン語訳からの日本語訳を比較できるように平行に配置した上で、とりわけギリシア語原典に対してラテン語訳が異なっている箇所では、ラテン語訳に基づく日本語訳に下線を引いた。それと同時に、ラテン語訳では省略されてしまい、ギリシア語原典のみに残っている箇所については、ギリシア語原典に基づく日本語訳に波線を引いた。このような作業により、原典と翻訳のテクスト上の差異が容易に判別できるようになった。 これまでの研究は、ヒエロニュムスによる翻訳上の改変を、ギリシア語原典の「濃縮」、「合理化」、「拡張」、「修正」、「(新しい要素の)導入」に分類して理解してきた。しかし、上記の作業をしていく中で、これらの分類には当てはまらないと思われる箇所が一定数見受けられた。そのような箇所を収集していくことで、従来の研究より一段深い分析が可能になる見通しがついた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度はオリゲネス『エレミヤ書説教』において、ギリシア語原典と、ヒエロニュムスによるラテン語訳の両方がそろっている全12説教のうち、第1説教の読解が終了した。第1説教は他の説教と比べると長大であるため、読解に時間がかかった。それゆえに、読解が終了した説教の本数は少ないが、全体量から見れば大きな成果といえる。今後は、精読および比較の作業を、他の説教(2、4、8、9、10、11、12、13、14、16、17)に関しても同様に行っていけば、研究機関内に十分に成果を上げることができると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、第1説教に対して行ったような、ギリシア語原典とラテン語訳との比較・読解の作業を、他の説教に対しても継続していく。現時点での見通しでは、2年目ですべての説教の読解を完了させたいと考えている。その後、3年目には読解の結果得られたデータを比較・分析する作業へと移り、その成果を説教ごとに論文としてまとめる。4年目には個々の説教の分析から得られたデータを統合し、『エレミヤ書説教』全体を対象とした議論へと練り上げていく。5年目には、そのようにして書いてきた論文を書籍としてまとめる。
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