2023 Fiscal Year Research-status Report
日本の公教育における母語教育の再構想:権利/資源としての言語の可能性を活かすために
Project/Area Number |
23K12228
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Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
王 一瓊 お茶の水女子大学, 基幹研究院, 講師 (70913523)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 公立学校 / 母語教育 / 資源としての言語 / 権利としての言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、公教育における母語教育の実態及びその効果を探ることを目指している。そこで、本研究は、母語教育に実際に携わっている教師だけではなく、母語教育の実績を有する日本の公立高校を卒業した卒業生を対象としている。日本の教育現場では、外国人の児童生徒が急増しているが、「母語教育が日本人との分断を招く」という懸念があり、外国人生徒の将来展望を強調し、「母語教育より日本語教育」や、「母語教育より英語教育」という傾向が強いとされている。だが、これらの議論では、対象者である外国人生徒の視点が見落とされている。そのため、本研究では、母語教育の実績を有する公立高校の3名の卒業生に対して追跡調査を実施した。さらに、教育環境をより詳しく把握するために、母語教育を携わる教師の1名に対してインタビュー調査を行った。調査の結果、「家庭」、「教育」、「雇用関係」、「友人関係」と行った4つのドメイン(Fishman 1972)に焦点を当て、卒業生の言語使用状況を解明した。卒業生たちは、家庭内や、友人関係などのドメインにて、母語である中国語を頻繁に使用しているが、雇用関係では職場によって状況が異なる。一部の卒業生は自らの中国のルーツや中国語を積極的に資源として活用する一方で、一部の卒業生は中国や中国語との距離を置くこともあります。また、予想に反して、卒業生は、高校時代と比較して、母語教育の意義をより抽象的なものへとして捉える傾向が見られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
「研究実績の概要」欄にも記載した通り、卒業生3名及び母語教育を携わる教員1名に対するインタビュー調査は実施できたが、高校での実態調査がやや遅れている。これにより、研究全体の進展がやや遅れていると考えられる。本研究では、卒業生の重要なライフイベントを狙ってインタビュー調査を実施している。だが、そのタイミングでは卒業生が多忙であるため、インタビュー調査に時間が必要である。また、フィールドである公立高校の人事異動や、コロナ後の状況で現場教員のご多忙などといった要因もあったため、現地調査とそのまとめに時間を要する。また、一部の研究成果がまだ公開できていないため、これの達成は翌年度の課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
研究目的を達成するために、本研究は以下の問いを示しつつ、研究を進める予定である。 まず、研究対象者である卒業生の人数を増やし、インタビュー調査を進めていく予定である。その上に、年度ごとに追跡調査を行い、卒業生たちが直面している環境や、彼ら・彼女らの心境の変化を追跡する。 次に、外国人児童生徒に関係する母語教育政策の新たな動向を把握する。これらの言語教育政策に注目しながら、実際に教育現場における母語教育のあり方への影響を随時調査する。具体的には、関西の公立高校における外国人生徒向けの教育方針、カリキュラムの変化、教員配置などをも調査する。そして、それに基づいた母語の授業における指導方法の様相、使用される教科書などを把握し続ける。 最後に、今年度の研究成果をまだ一部公開していないため、関連する分野の研究者との意見交換を活発に行い、学会発表や刊行の準備に取り組みたい。
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Causes of Carryover |
2023年度にて海外学会の参加に実現できなかった代わりに、2024年度に海外学会の発表及び参加が実現できたことを考慮し、2024年度分として請求する。2024年8月にマレーシアに開催される学会への参加費及び旅費として使用する予定である。
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