2023 Fiscal Year Research-status Report
Transformation of the Right in French Politics from the End of the 19th Century to the Beginning of the 20th Century
Project/Area Number |
23K12300
|
Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
湯浅 翔馬 香川大学, 経済学部, 准教授 (70875781)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | フランス / 右翼 / ナショナリズム / 保守派 / 第三共和政 / 世紀転換期 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は9月末にパリに渡航し、文書館史料の調査・収集を行った。主に調査したのは愛国者同盟(la Ligue des patriotes)とその指導者ポール・デルレードに関わる警察文書である。時間の制約上、網羅的に収集することはかなわなかったが、愛国者同盟に関連する史料自体はフランス国立中央文書館、パリ警視庁文書館にある程度まとまった数が存在すること、一方でその中で保守派右翼との関係に言及する警察報告書の数は限定的であることが明らかになった。そのため文書館史料の分析だけでなく、各種機関誌などの新聞・雑誌メディアにおける論評や報道において、各政治勢力が他の勢力をいかに捉えているのか、そしてそれは政治・社会的文脈の推移のなかでいかに変化したのかを併せて検討する必要性が浮かび上がった。またこれらの史料収集と並行して、関連する文献を渉猟することで、研究史の動向を把握、整理した。 本格的な分析に取り組む前段階として、本年度は史料の収集・整理および研究史の把握に時間を費やしたため、論文としての成果はなかったものの、本研究課題に深く関連する書評を執筆した(谷口良生著『議会共和政の政治空間―フランス第三共和政前期の議員・議会・有権者たち―』(京都大学学術出版会・2023年)『史学雑誌』第133巻1号、2024年1月)。本書は南仏ブーシュ=デュ=ローヌ県の地方議会から「議会共和政」=第三共和政の時期の議会政治を再検討した浩瀚な研究書である。地域の特性上、主に共和派・急進派などの「左翼」を対象としているが、同時代の右翼勢力を分析対象とする本研究課題で得られた知見を、書評のなかに反映することができた。また本研究課題の成果を、第三共和政の政治史研究や19世紀フランス史研究という広い文脈のなかにどう位置付けるかといった問題について有益な示唆を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
円安の影響で当初予定していたよりもパリ滞在の期間が短くなってしまったこと、くわえて調査すべき史料の数が予想よりも多くあることが判明した一方で、研究課題に直接的に関連するものは予想よりも少なかったことで、収集・整理に想定以上の時間がかかっており、進捗はやや遅れている。今年度は収集・整理・分析を迅速に実施し、成果の公表に励みたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、まず史料収集に関しては長期休暇中にパリに滞在し、国立中央文書館およびパリ警視庁文書館で、2023年度に収集しきれなかった愛国者同盟関連の史料を収集する。また時間的に可能であれば、反ユダヤ主義的政治組織やフランス祖国同盟、アクシオン・フランセーズ関連の史料も調査・収集したい。これら文書館史料の収集・分析と並行して、新聞・雑誌などのメディアでの各政治勢力の報道・論評を分析する。そのうえで、1880年代から19・20世紀転換期における愛国者同盟とボナパルト派の同時代的な関係を検討した論文を執筆、投稿する。 またポール・ド・カサニャックなどの代表的な旧来の保守派右翼である人物が、新興の右翼ナショナリストをどう認識していたのか、また右翼ナショナリストたちがカサニャックなどの旧い右翼をどう認識していたのかという問題を、新聞・雑誌メディアの記事や集会の様子を記した文書館資料などから検討し、研究会での研究発表あるいは論文執筆の準備を進めたい。
|
Causes of Carryover |
本年度は円安の影響のため、当初2回を予定していた現地調査を1回とせざるを得なかった。一方で、1回の滞在で2回分の予算を使い切ることにはならなかった結果、当初の計画の予算との差額が生じた。物品購入費等に充てることも考慮したものの、今後の旅費や図書購入に関わる円安の上昇傾向の継続、拡大を考慮して、2024年度に使用することとした。
|