2023 Fiscal Year Research-status Report
青果物卸売市場流通の地域構造と公共的機能:市場間格差の拡大と流通の空白地帯の出現
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23K12330
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
観山 恵理子 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (00733643)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 卸売市場 / 青果物流通 / 空間構造 / 流通システムの再編 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、主として立地が異なる2つの公設卸売市場の事例を通して、卸売市場の公共性や今後の展開について検討した。駒ヶ根市地方公設卸売市場(以下、駒ヶ根市場)は、小規模ながら長野県駒ケ根市において地域の地場流通拠点として、給食食材の供給や東京向けの貨客混載事業への商品提供を行っていた。同市場は、施設の老朽化や取扱量の更なる縮小を背景に2023年12月末をもって廃止された。駒ヶ根市場の閉場によって、貨客混載事業による都市部とのつながりや一部の地場流通機能は失われた。駒ヶ根市場が担っていた都市と農村との間での情報流通機能や小規模生産者をカバーする地場流通機能、給食への地場産品供給は市場の公共的役割であったといえ、市場の閉場後はこれらの継承や代替が課題となっている。一方で、同様に施設の老朽化が進み取扱量が減少傾向にあった首都圏に立地する公設地方卸売市場では、大手小売業者が同市場での卸売業に参入したことで取扱量が回復した。その結果、市場機能の拡充や更新に関する議論が始まっている。このように、国内の農産物流通において、その立地や規模により大規模小売業が主導する青果物流通システムにおいて経済的利益を追求できる卸売市場が生き残っていると言える。これらの卸売市場調査の結果については、2024年4月の日本地理学会におけるシンポジウムで報告した。 上記に加えて、産地では契約栽培や市場流通の動向について生産者調査を実施した。契約栽培によって安定的な収入を得ることを優先している農家は、卸売市場へは出荷しないか、需給調整のために補助的に利用していた。こうした契約栽培や安定志向が卸売市場経由率の減少に寄与していると考えられる。 さらに、災害発生から一定期間が経過した東日本大震災の被災地や自然災害の被災農産物の流通における市場の位置づけや消費者の意識についても検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度は卸売市場ならびに産地における聞き取り調査を優先したため、統計データの収集・解析はやや遅れている。一方、現地の実態については取りまとめが進んだ。特に公設卸売市場の公共性に関連して、閉鎖された市場の影響と施設の更新を予定している市場との比較検討ができた。今後の統計データの収集と分析について、基礎となる情報収集ができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目以降は、統計分析と、その結果をもとにした追加的な現地調査を実施する。まず、全国の卸売市場の取扱数量の空間分布と転送関係による階層構造を統計分析によって明らかにする。青果物流通において、川下主導の流通システムの構築は、1980年前後から顕著になったと指摘されている。そこで、その前後の時期における市場間格差の拡大とその空間的表出を明らかにするために、青果物卸売市場調査の各卸売市場の取扱数量のデータを用い、1980年から2020年までの10年ごとの市場取扱量の空間分布の変化を地理情報システム(GIS)ソフトウェアのArcGISを用いて可視化する。加えて、ジニ係数の変化を追うことで、取扱量格差の拡大を数値化する。また、統計分析と並行して、近年閉鎖や再編が行われた卸売市場を対象に聞き取り調査を実施する。
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