2023 Fiscal Year Research-status Report
裁判権免除の「人的」性格再考-大陸法系の諸国を対象に
Project/Area Number |
23K12373
|
Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
新倉 圭一郎 東京都立大学, 法学政治学研究科, 教授 (70803146)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 裁判権免除 / 人的性格 / 管轄分配 / 国際私法 |
Outline of Annual Research Achievements |
裁判権免除は、被告の主体の性質を理由とする「人的」な制度とされるが、行為の性質を理由に「事項的」に免除を導出する「制限免除主義」が主流の現代において、免除制度の「人的」性格をなお維持すべきか、理論的な問題は残されている。 今年度は、「制限免除主義」たる免除制度の「人的」性格如何について学説上最も盛んに論じられてきたフランスを対象に、免除に「人的」性格を認めることの当否を検証した。フランスにおいては、主に国際私法学者によって、裁判所の管轄分配規則に倣って免除制度を捉える見方が強く主張されてきた。すなわち、フランス国内法上、司法裁判所と行政裁判所との間での管轄事項の振り分けが行われているように、他国の「主権的行為」についての裁判権の振り分けが国際法上行われている、との理解であり、そうした理解に基づいて、他国を訴えるという要件や、免除放棄の効力を否定する議論が一定程度有力に主張されていた。 こうした主張に対して、現行の免除制度になお「人的」性格を主張する論者は、①被告の地位のみに基づいて「人的」に免除が認められてきた「絶対免除主義」の時代から「制限免除主義」まで一貫して免除が認められてきた、という歴史的変遷の評価、②免除放棄を認める実行の存在、③国際法上の法主体を持たない主体、主に州の行為について免除が否定されていること、という三点を理由としていることが明らかになった。こうした学説対立より、「絶対免除主義」の理論的根拠を特定することが課題であることが示された。 「絶対免除主義」のリーディング・ケースがどのような理論的根拠に基づいて免除を導出しているか検討した結果、他国の「主権的行為」という行為の性質に鑑みて、いずれの国に裁判権が認められるか、という観点から免除が導出されており、フランスでは生成期より、被告の地位そのものから免除が導出されていたわけではないことが示された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の目標は、フランスにおける「絶対免除主義」のリーディング・ケースを網羅的に検証し、そこでの免除の理論的根拠を示すところまで検討を進めることであった。フランスにおける学説対立の争点の一つであった州の行為に免除を否定するケースについて検討を行うことはできなかったが、代表的なリーディング・ケースについては網羅的に検証することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度行うべき検証は以下の二点である。第一点目は、今年度行うことができなかった、州の行為に免除を否定するケースにおいて免除がどのような理論的根拠に基づくものとして観念され、免除を否定する根拠はどのようなものであったのか検証することである。 二点目は、「絶対免除主義」における免除の理論的根拠が、その後の展開においてどのように受け継がれていったのか(いかなかったのか)を検証し、現行制度に「人的」な性格を認めるべきか否か評価することである。そのため、「制限免除主義」のリーディング・ケースを丹念に検証する作業が次年度の主な課題である。
|
Causes of Carryover |
今年度、海外に資料収集に行くことを想定していたが、必要最低限の資料は国内で入手できたため、次年度の資料収集のために繰り越すことにした。
|