2023 Fiscal Year Research-status Report
認識なき過失についての研究ー前倒し認定論を中心にー
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23K12382
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
楊 秋野 京都大学, 法学研究科, 特定助教 (40911863)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 過失犯 / 責務違反 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度に、従来の研究成果をまとめたほか、責務違反論に関する研究を進めていた。研究実績は、日本刑法学会関西部会の共同報告を内容とする論文である。
「過失不作為犯の帰属原理」楊 秋野 刑法雑誌 = Journal of criminal law / 日本刑法学会 編 63 (1), 118-131, 2023-11
この論文では、過失犯不作為犯に基本構造をめぐる議論を紹介、検討したうえで、過失不作為犯の重要判例である薬害エイズ事件厚生省ルートを素材として展開し、「支配」と言う要素は故意不作為犯の場合に考慮されるべきが、過失犯の場合に、大規模事故を防止するための危険制御に着目する必要性があるので、「支配」を不要と解すべきである、という結論に至った。 また、本研究に関して、ドイツの責務違反論の基本的な見解、理論構成、射程範囲および責務違反論に対する批判を明らかにしたうえで、責任論における違法性の意識の可能性および原因において自由な行為に関する議論を踏まえて、責務違反論の射程範囲を検討した。それに関する二つの論文は作成されたが、2024年度に公表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、責務違反論や責任非難の根拠を視野に入れて認識なき過失ないし過失犯全般の処罰根拠を内容とするところ、一年目の研究は、責務違反論の基本的な内容、観点、理論構成を明らかにしたうえで、ドイツの議論を参照しながら、日本の現在の議論状況を踏まえて責任論(違法性の意識の可能性および原因において自由な行為をめぐる論争)における責務違反論の議論およびその妥当性、問題点を明らかにした。そのため、一年目の研究により、本研究の土台を築いたといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これから、一年目に構築された研究の土台のもとで過失犯に関する議論に立ち入る予定である。日本の過失犯をめぐる議論および裁判例を広く取り上げて、責務違反論の視野から過失犯における情報収集義務と予見可能性の問題を検討し、過失犯の責任非難の根拠を明らかにする。今のところは、情報収集義務を結果回避義務の一要素と解する判例、学説とそれを予見可能性の一要素と解する判例、学説を整理、検討することにより、諸概念の関係を明らかにする作業を行っている。 また、2023年度に作成した責務違反論に関する論文を2024年度に公表する予定である。
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Causes of Carryover |
前年度の使用額が若干残っているので、次年度に使用する希望である。物品費(文献の購入など)として使用する予定である。
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