2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K12386
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Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
大角 洋平 愛知学院大学, 法学部, 講師 (10923542)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 取調べ / 黙秘権 / 司法取引 / トラウマ / トラウマインフォームドアプローチ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、刑事法学・経済学・心理学の各知見を参照することで被疑者・被告人の意思決定を分析し、自己負罪型司法取引の制度設計を試みる点にある。司法取引には様々なプレイヤーの多種多様な利害得失と意思決定が関わる。その構造を紐解くことで、自己負罪型司法取引の最適化を図ろうとする。 初年度である2023年度は、被疑者の意思決定分析に注力し、被疑者の心理的状況を研究した。具体的には、被疑事実それ自体が被疑者にとってトラウマ体験である場合の取調べのあり方を考察した。児童虐待死が典型例のように、被疑者は、犯人性を問わず、子どもが亡くなったというトラウマ体験をする。そのトラウマ体験とトラウマ反応が原因で、被疑者が有する各種権利の理解度が低下し、その権利行使が困難になる場合が生じる。それは取調べに対する規制メカニズムが稼働しない状態をもたらす。更に、被疑者は一種の混乱状態に陥り、供述に関わる利害得失判断に歪みが生じる可能性がある。それは虚偽自白等の歪んだ供述を採取することに繋がる。そのようなトラウマ反応への応対として、トラウマインフォームドな取調べ制度が必要であることを示した。 これまで被疑者のトラウマ体験の影響を考慮した取調べ制度というのは考えられてこなかったが、本研究は、そのような欠落していた視点を取り上げ、改善案を提示した点に意義がある。さらにこの研究は、被疑者・被告人の権利保障が十分なものかどうかをトラウマというレンズを通じて分析しなければならないことを示す点で、射程の広い研究といえる。自己負罪型司法取引を設計するにあたっても、被疑者の心理的状態を考慮しなければならないことを示唆する点に、本研究の重要性が見いだせる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度においては被疑者の心理学的分析を並行しながら、司法取引のゲーム理論モデルを構築し、完全ベイジアン均衡を導出した。研究上の大きな課題であったゲーム理論モデルが構築できたため、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、司法取引のゲーム理論モデルをもとに、経済学実験・心理学実験を行うことでモデルを検証・拡張していく予定である。人はどのような場合に嘘をつきやすく、真実を伝達するようになるのかについては、経済学実験・心理学実験が存在している。もっともこれら実験のいくつかは、刑事司法という文脈から外れているものである。そこで先行研究が採用した実験方法を司法取引の文脈に落とし込んでいき、研究を進展していく。そのような研究をもとに、ゲーム理論モデルを精緻なものへと仕上げていく予定である。
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Causes of Carryover |
宿泊費の高騰及び洋書の価格高騰が原因である。東京での報告を更に考えていたが、都心の宿泊費が今後も高騰する予測があったため、次年度に予算を当てることにした。また、円安傾向から洋書の価格が高騰したために、購入を断念したものが存在する。これは2024年度に購入する予定である。
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