2023 Fiscal Year Research-status Report
著作権・著作者人格権侵害に対する「差止めの範囲」:全面的禁止効の批判的検討
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23K12398
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
鈴木 敬史 富山大学, 学術研究部社会科学系, 助教 (40963765)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 差止請求権 / 著作者人格権 / 著作権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、著作者人格権侵害・著作権侵害の効果という側面に着目し、その保護法益の観点から、権利者・利用者双方に望ましい「差止めの範囲」を探求することである。2023年度の研究成果はおおむね以下のとおりである。 本年度は、まず著作者人格権の保護法益から、その侵害要件および侵害による効果を検討した。その結果、著作者人格権の実効的な保護のためには、全面的禁止効(権利侵害が認められたら直ちに差止めが全範囲で認められること)を権利者に付与する必要はなく、むしろ弊害をもたらすとの確信が得られた。この点に関する理論モデルは、いまだ公表に至っていないものの、次年度に予定されている研究報告で関連する研究者の評価を受けた後、次年度以降執筆する論文において公表する予定である。 また関連して、本年度は、(本研究が対象とする)全面的禁止効がもたらす悪影響について検討するため、いったん他の知的財産権や知的財産法類似の権利保護のあり方についても検討した。具体的には、商標権について、その強力な排他権(全面的禁止効)による弊害を低減するために如何なる措置が考えられるかを、商標法制度に関する判例評釈を通じて検討した。加えて、近年盛んに議論されており、かつ、著作権とも関連が深いとされる「データ保護」に関して、これに排他性を付与することで如何なる問題が発生するかを検討し、もって、著作権法上の差止請求権のあり方に対する示唆を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は研究初年度であったことに加え、所属研究機関を変更し、研究環境の整備・立ち上げや学生教育に係る新規業務が重なったため、本研究の完成には至らなかった。 しかし、次年度においては、本研究に関連した研究報告の機会・論文として公表する機会を複数確保しており、一定の研究成果を出すことが期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、まず4月中旬に本研究課題に関連する研究報告を、知的財産法分野の研究者が参加する研究会で行うことを予定している。また、6月に開催される著作権法学会研究大会においては、これと関連する内容をもって個別報告を行う機会を既に得ている(なお、この両者は、本研究課題のほか、同時期に実施している他の研究課題とも強く関連する)。 加えて、12月には、本研究課題と密接に関わるテーマにより、研究報告が予定されているほか、次々年度に出版予定の論文集において、その成果を公表することが計画されている。 さらに、本研究課題と関連する博士論文の一部を修正し、所属機関の紀要に掲載することも予定している。
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Causes of Carryover |
同時期に実行している他の研究を優先させたため、本研究課題に係る研究に遅れが生じた。それゆえに、本年度予定していた分の研究を実施できず、したがって、その分の研究費は次年度に使用するため次年度使用額が生じるに至った。 これら次年度使用額は、次年度の図書の購入およびデータベースの契約費用に充てることを検討している。
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