2023 Fiscal Year Research-status Report
N.ルーマンの社会システム理論における空間の位置づけ
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23K12602
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
渡會 知子 横浜市立大学, 国際教養学部(教養学系), 准教授 (10588859)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ルーマン / 空間 / 包摂 / 排除 / 移民支援 / ストリートレベルの官僚制 / コンタクト・ゾーン / ブロッホ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、N.ルーマンの社会理論における空間概念の位置づけに関する理論的研究と、ドイツにおける移民支援に関する実態調査とを両軸とし、都市空間などに創発するコミュニケーションの動態を捉える方法論的視座を検討するものである。初年度となる今年は、これまで主に「包摂/排除」という視点で行なってきたドイツのミュンヘン市における移民支援の実態調査を、新たに「ストリートレベルの官僚制」「コンタクト・ゾーン」などの概念と結びつけて考察することで、「支援する/される」あるいは「差別する/される」という単純な二項図式には収まらない移民支援現場の自省的なダイナミズムについて検討した。成果を、6月にオーストラリアのメルボルンで開催された国際社会学会(ISA)世界大会で報告した(”Complex, Dynamic, and Sensitive: Street-Level Bureaucracy As a Reflexive Contact Zone”)。また、ルーマンの社会理論と、ドイツの思想家E.ブロッホの希望論に共通してみられる偶有性の概念(「他でもあり得ること」)の意義について論究し、成果を9月に公刊した(「希望の語り方ーE.ブロッホ『希望の原理』と「他でもあり得る」現実の行方」『地方創生の希望格差 寛容と幸福の地方論Part.3』LIFULL HOME'S総研編)。同じく9月に、ドイツ学術交流会のフォーラムにて「『移民による移民支援』と自治体行政の役割」を報告した。報告をもとに執筆したものが同フォーラムの論集に収録された(「ドイツの移民統合政策は自治体でどのように受け取られ遂行されたのかーミュンヘン市を事例にー」『DAADアルムニ・フォーラム2023論集』)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の中の個別テーマのひとつに着手し、成果を国際学会で発表することができた。また、当初の予定にはなかったテーマで論文を発表する機会にも恵まれた。ドイツにおける現地調査は、本務校における業務との兼ね合いで延期せざるを得なかったものの、その間にも理論的な研究をさらに深めることができた。全体として、順調に研究を進めることができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の成果を論文にまとめるため、一層精緻に概念的考察を進める。また、空間論の社会学史的な研究に着手する。2025年秋から予定される1年間のドイツ滞在(サバティカル)を有効に活用できるよう、調査準備を念入りに進めていく。
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Causes of Carryover |
海外渡航費を、当初の見積もりよりも低く抑えることができたため。また科研費で今年度まで継続している他の研究課題二件と共通する文献や、使用するOA機器等の購入について節約が可能となったため。 節約できた差額分は、次年度以降のドイツにおける調査の準備と実施、ならびに研究成果発信のための費用として使用していく。
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