2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K12946
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
跡部 発 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (50837284)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | 局所新形式 / Rankin-Selberg積分 / 局所テータリフト |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は準分裂偶数次ユニタリー群における局所新形式の理論の開発に取り組んだ。モジュラー形式はその豊富な対称性のために多くの数論的な応用を持つが、解析関数として直接扱うには難しい。そこでモジュラー形式を扱いやすくしたのが保型表現である。しかしながら、モジュラー形式論と保型表現論の間にはギャップがあり、それを埋めるのに必要となるのが局所新形式の理論である。 前年度は準分裂奇数次ユニタリー群における局所新形式の理論を開発した。こちらは十分に納得のいくものであったが、奇数次の場合には古典的なモジュラー形式論との繋がりが薄いという欠点がある。そこで本年度は偶数次の場合に取り組んだ。こちらはエルミートモジュラー形式と直接の繋がりを持ち、故に今後の応用に期待ができる。 局所新形式の理論とは、無限次元ベクトル空間である表現から、最も良いベクトルを定数倍を除いて選ぶ操作になる。これは通常は良いコンパクト群の列を考え、それらで固定されるベクトルのなす部分空間の列を見ることになる。偶数次ユニタリー群の場合にはそれだけではうまくいかないことが分かり、そこでフーリエ・ヤコビ加群と呼ばれる表現の商を考えるというアイデアに至った。これによって、最終的に局所新形式の重複度一定理が得られた。 今回の主定理において、一意性については、局所Gan-Gross-Prasad予想とRankin-Selberg積分の理論を応用するという、以前の研究の議論を模倣する形で証明できた。一方で、存在性については、局所テータリフトを利用して、奇数次の局所新形式を偶数次まで持ってくるという新しいアイデアにより証明された。このアイデアは、古典的な新形式が志村対応で保たれるというKohnenの結果の一般化であると見做せる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は局所新形式の理論の構築と、その応用としての保型表現の数え上げである。後者のためには、古典的なモジュラー形式との関係があるような群において、局所新形式を考えなければならない。本年度はエルミートモジュラー形式に対応する偶数次ユニタリー群に対して局所新形式の理論を確立した。次年度にはこれを応用して、保型表現の数え上げに取り組むことができると考えられる。以上のことから、本研究は順調に進展していると言える。 また、今回の局所新形式の理論において、先行研究ではあまり見られなかった現象が発見された。さらにそこで生じた困難を乗り越えるために、フーリエ・ヤコビ加群を考えるという新しいアイデアを得た。将来の研究において、別の群での理論の構築の際は今回の研究が基本となると考えられる。 今回の偶数次ユニタリー群の局所新形式の存在証明をするためには、前回の奇数次の場合のものからテータリフトで移してくるという手法を取った。これは古典的な志村対応が新形式を保つモジュラー形式の対応であるというKohnenの結果の類似だと考えることができる。テータリフトはユニタリー群に限らず、様々な群の組みで定式化されているので、今回の手法は他の群の場合の局所新形式の理論を考える際に役立つだろう。 一方で問題点も明らかになった。前回の奇数次ユニタリー群の場合では、非負整数に付随してコンパクト群を考えていたが、今回の偶数次の場合では、非負の偶数に伴うコンパクト群しか発見できなかった。理論上では奇数に付随するコンパクト群もあるはずなので、これを見つけることは今後の課題の一つである。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の偶数次ユニタリー群における局所新形式の理論を用いて、エルミートモジュラー形式を一般的に表現論で解釈することを目標に、研究に取り組んでいく。一方で、今回の局所新形式の理論では、通常とは異なり、フーリエ・ヤコビ加群を使うものとなってしまった。このために、レベル1の場合のジーゲルモジュラー形式の表現論的解釈と同じ議論は使えないことになる。今後の研究では、この難解さを紐解いていくつもりである。フーリエ・ヤコビ加群はエルミートモジュラー形式のフーリエ・ヤコビ展開の係数と対応するものである。逆に、フーリエ・ヤコビ展開の係数を先に与えた場合に、その展開が定める関数が実際にモジュラー形式になるかどうか、という問題を考えなければならない。この問題には、池田氏と山名氏によるDuku-Imamoglu-伊吹山-池田リフトの表現論的構成で使われた議論が役に立つのではないかと考えている。 一方で、本研究の最も重要な道具はArthurの重複度公式である。これは2013年に証明されたことになっているが、実際にはいくつかの準備中の論文を参照している。この準備中の論文は現在でも世に出回っておらず、Arthurの重複度公式は未完であるというのが専門家たちの共通認識である。今回、何人かとの共同研究として、この準備中の論文に書かれるべき定理を証明していくプロジェクトが立ち上がった。私もこのプロジェクトに参加し、いくつかの論文を執筆する予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は北海道大学から研究費をいただくことができ、そちらを優先的に使用したために、科研費での次年度使用額が生じた。これについては、次年度に何名かの研究者を科研費で招聘することにより使用する見込みである。
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