2023 Fiscal Year Research-status Report
非マルコフ領域における有限時間量子制御手法と量子熱力学への応用
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23K13036
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Research Institution | Institute for Molecular Science |
Principal Investigator |
布能 謙 分子科学研究所, 理論・計算分子科学研究領域, 特任助教 (60830156)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 量子制御 / 量子開放系 / 量子熱力学 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年のナノテクノロジーの発展により、超伝導量子ビットを始めとする様々な量子系は、量子情報処理や量子コンピュータを実現することを目的として活発に研究されている。現在の量子情報技術をさらに発展させるためには、平衡から遠く離れた領域で動作する量子系のダイナミクスを理解し、制御する手法を開発する必要がある。本研究では、量子コンピュータの動作などを高速化しつつ、環境のノイズなどに起因するエラーを抑制するための、量子制御手法の一般的な理論を構築することを目指す。 この目的を達成するため、与えられた量子状態に沿ってシステムを時間発展させつつ、操作速度を加速するために必要な制御の物理的な形を求めることを目指す。まずは、スピン環境や固体物性量子デバイスにおける二準位間ノイズといった、量子情報デバイスにおけるノイズを記述する手法の開発に取り組んだ。そして、環境を散逸量子ビット系によってモデル化することで、ポアソンノイズマスター方程式を導出した。特に、基底状態へのエネルギー緩和レートの解析を行うことで、従来のマスター方程式の解析では緩和レートがシステム数に比例して大きくなるのに対して、得られたマスター方程式の場合は、緩和レートの上限がノイズの発生頻度によって与えられることを見出した。 さらに、環境自由度との相互作用によって着目する量子系にフィードバック制御が働くような状況を探索することで、量子制御を実装する理論的手法の構築を行っている。より具体的には、散逸量子ビット系のミニマルモデルや、調和振動子環境におけるエネルギー再配置過程を解析し、どのような量子制御が実現可能なのかを探索中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的を達成するためには、量子情報デバイスにおけるノイズによるデコヒーレンスや散逸の影響を理解し、解析することが必要である。今までの量子開放系の理論では、調和振動子によってモデル化された環境の影響の解析が主であり、スピン環境や固体物性量子デバイスにおける二準位間ノイズといった状況を取り扱う理論的枠組は確立されていなかった。現在までの進捗状況では、後者のような、量子情報デバイスを理解するうえで重要な物理的設定における時間発展方程式を記述する、マスター方程式の導出を行っている。さらに、この結果を基に、環境自由度との相互作用によって着目する量子系にフィードバック制御が働くような状況の探索を開始している。よって、量子コンピュータの動作などを高速化しつつ、環境のノイズなどに起因するエラーを抑制するための理論構築に向けて概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の進捗方針について、まずは現在行っている、環境自由度との相互作用によって着目する量子系にフィードバック制御が働くような状況の探索を更に進展させる。 特に、幾つかのミニマルモデルを解析し、可能な量子制御とその実現に必要な要素を明確化する。特に、フィードバック制御を自律的に行う、いわゆる自律デーモンの数理モデルを参考にし、情報論や熱力学的な観点から、量子制御の特徴づけや条件づけの考察を行う。
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Causes of Carryover |
当初の予定では海外で行われる国際学会に参加し、情報収集を行う予定であった。しかしながら、今年度は国内で行われた国際学会・国内学会の参加で情報収集の目的を十分に達成できた。そのため、翌年度分として請求した助成金と合わせて、次年度に複数の国際学会に参加し、今年度得られた成果を発表するとともに、研究計画の達成に必要な情報収集を行う計画である。
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