2023 Fiscal Year Research-status Report
人工微細構造により増強・制御された新奇テラヘルツ非線形現象の探索
Project/Area Number |
23K13045
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
関口 文哉 東京大学, 低温科学研究センター, 特任助教 (80899617)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | テラヘルツ分光 / 非線形現象 / 超伝導薄膜 / 超伝導臨界電流 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、超伝導ダイオード効果を示す人工超格子薄膜Nb/V/Taにおいて、高強度なテラヘルツ電場パルスが引き起こす非線形現象の研究を行った。時間・空間反転対称性の破れた超伝導体において、直流の輸送測定では電流の向きに依存して超伝導破壊の臨界電流値が異なる値をとる超伝導ダイオード効果が現れるが、この物質系に高強度テラヘルツパルスを用いた分光を適用することで、テラヘルツ帯の高速領域における周波数変換や整流効果を探求するとともに、超伝導ダイオード動作の背後にある微視的メカニズムを考察することを狙った。 そのために、低温・磁場下でテラヘルツ分光が可能な実験系を構築した。具体的には、超伝導マグネットを備えた分光用クライオスタットを、LiNbO3結晶を用いた高強度テラヘルツパルス発生・分光系に組み込み、さらに分光と同時に直流の電流-電圧測定が行えるような試料配置・配線を行った。まず、比較的弱い電場強度のテラヘルツパルスを用いた線形分光により、人工超格子超伝導体の光学伝導度スペクトルを(世界で初めて)測定し、超伝導ギャップエネルギーを精密に決定した。次に高強度のテラヘルツパルスを用いた非線形応答の観測を行ったところ、当初の狙いであった磁場印加による偶数次のテラヘルツ高調波発生は、無電流下では測定の感度内で検出されなかった。そこで、試料に直流電流を印加し、超伝導ダイオード動作下におけるテラヘルツ非線形応答の観測を試みたところ、テラヘルツ照射によって超伝導状態が敏感に破壊されるという未知の振る舞いが現れた。言い換えると、直流電流に対する臨界電流の値が、テラヘルツパルス励起によって大きく減少した。現在、この現象の起源を明らかにするため、テラヘルツパルスの周波数や偏光方向に対する依存性などの実験結果を考察している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の主たる目的である、人工微細構造によって対称性を破った超伝導体におけるテラヘルツ非線形現象の探求のため、低温・磁場・電流印加下での高強度テラヘルツパルス分光系を構築し、実験を進めた。 その結果、当初の目論見であったテラヘルツパルス単体が引き起こす偶数次高調波の観測には至っていない一方、直流電流とテラヘルツ電流を組み合わせた実験によって、超伝導臨界電流が敏感に変化するという未知の現象を発見した。この現象を詳細に追求することで、研究開始時には予想しなかった新たな非線形現象の探求につながると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
実験で得られた超伝導臨界電流変化の背後にある物理過程について、磁気ボルテックスの運動に基づいたモデル計算によって、その詳細や一般性について考察していく。また並行して、量子常誘電体のソフトフォノンモードによるテラヘルツ高調波発生の可能性についても検討していく。
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Causes of Carryover |
実験を進める中で、当初想定していなかった超伝導臨界電流の高感度な測定の必要が生じたため、予算配分計画を一部変更した。翌年度も引き続き優先度の高い測定機器を選定し導入すると共に、得られた成果を国際会議で発表するために予算を使用することを計画している。
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