2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K13059
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中埜 彰俊 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50842613)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 熱電半金属 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では遷移金属カルコゲナイドTa2PdSe6が低温で示す、他の熱電材料よりも2桁以上大きな巨大ペルチェ伝導度の起源解明を目指す。ごく最近、第一原理計算によって本物質に電子面と正孔面のネスティングに対する電子状態の不安定性が存在することが確認され、本系が一電子近似で表されない異常な半金属状態にある可能性が示唆された。そこで本研究では単結晶試料育成、および熱電物性、量子振動、フォノン分散の系統的な測定によりこの可能性を検証することを目的とする。 2023年度は放射光施設SPring-8にてTa2PdSe6のフォノン分散観測を行った。その結果、室温における横波光学フォノンにソフト化が見られることを発見した。このような異常な振る舞いは、同構造で絶縁体のTa2PdS6には見られないことから、第一原理計算によって予言されるフェルミ面の不安定性をソフトフォノンを通して観測した初めての結果であると言える。また、国内の強磁場共同利用施設の担当者と打ち合わせを開始し、研究体制を整えた。さらに東北大学金属材料研究所においてTa2PdSe6のシュブニコフ・ドハース振動の観測し始めており、今後の解析によってこの系のキャリアの持つ有効質量や散乱時間を定量的に明らかにできると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始時には、第一原理計算による理論予測にとどまっていたTa2PdSe6における構造の不安定性を放射光施設SPring-8にて実験的に直接観測することに成功した。Ta2PdSe6のフォノン分散では、室温において0.5b*の地点でソフトモードが出現しており、構造の揺らぎが発達し始めていることが分かった。また、国内の強磁場共同利用施設の担当者と打ち合わせを開始し、研究体制を整えた。一部の実験は既に実行に移っており、東北大学金属材料研究所の15T超伝導マグネットを使用した磁気抵抗の実験では、2 K以下の極低温においてTa2PdSe6のシュブニコフ・ドハース振動の観測に成功した。今後の解析によってこの系のキャリアの持つ有効質量や散乱時間を定量的に明らかにできると考えている。ARPESやNMR等の共同研究も開始し、実験データが得られ始めている。これらの結果を考慮して、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究によって、Ta2PdSe6が励起子密度波の不安定を有していることが実験的に明らかとなった。この不安定性と低温における巨大な熱電応答との関係を明らかにするため、2024年度には放射光施設SPring-8にてソフトフォノンの温度依存性を調べる。室温よりも高温側のフォノン分散を計測することで、ソフトモードが消失する温度を見出す。これにより電子面と正孔面のネスティングに関わる相互作用のエネルギースケールを見積もる。またソフトモードが低温でさらにソフト化するか否かを調べることで、最低温付近での電子状態について知見を得る。実験と並行して、第一原理計算による電子状態の解析を進め、ソフトモードを生む軌道間混成の詳細を明らかにする。 物性測定の観点では、Ta2PdSe6に元素置換を施した単結晶試料について、強磁場共同利用施設における磁気輸送測定を行う。2023年度に得られた母物質の結果も含めて量子振動成分の解析を行い、この系の熱電応答に関与するキャリアの有効質量や散乱時間を定量的に明らかにする。
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Causes of Carryover |
2023年度の研究開始後に、2024年度に米国で開催されるMRS-2024 Spring Meeting にて本研究内容に関する招待講演を行う機会を得た。当初の研究計画にはない国際会議での招待講演であったが、分野を牽引する研究者と本研究結果に関して議論する良い機会と考え、招待講演依頼を承諾した。米国における物価高と円安の影響により、予定されていた2024年度予算内での出張が難しいと判断し、その出張費用を補うため2023年度の備品・消耗品の一部を次年度使用額とした。
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Research Products
(11 results)