2023 Fiscal Year Research-status Report
沈み込むスラブ内鉱物間の水の分配:スラブ挙動の解明に向けて
Project/Area Number |
23K13187
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
櫻井 萌 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 特任助教 (00963729)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 鉱物中の水の分配 / 高温高圧実験 / 地球深部科学 / 沈み込むスラブ / 深発地震 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、水に富んだ沈み込むスラブ中の温度圧力領域における熱力学的に安定な鉱物間の水の分配を明らかにすることを目的とし、具体的には以下に示す2つのステップに従い研究を進めている。 ①安定な水素配置をもつマントル鉱物の単結晶試料合成手法の開発 ②沈み込むスラブの低温領域における無水鉱物・含水鉱物間の水の分配を決定 初年度である2023年度は、①単結晶試料合成手法の開発に注力し、研究を行った。具体的には、上部マントル最主要鉱物であるカンラン石(Olivine:Ol)と、下部マントル最主要鉱物であるブリッジマナイト(Bridgemanite: Bdm)の単結晶合成に取り組んだ。 Olでは、結晶の融点付近から、徐々に温度を下げていき、結晶を成長させるSlow cooling法により最大で~500 μm以上の大きさの単結晶が得られた。一方でslow cooling法に加え、10度程度の温度揺動を加えても大型の単結晶育成にはほとんど効果がないことが明らかとなった。本研究で得られた結晶は、内部に包有物を含まず高品質であり、各温度圧力条件における最大含水量に近い水を含んでいた。また、拡散法と結晶成長法で含水された試料には、赤外スペクトルに大きな違いがあることが明らかになった。赤外スペクトルは結晶中の水の入り方を反映しており、拡散法は実験前の試料の欠陥の影響が反映されている可能性がある。そのため、単結晶試料を用いた物性測定実験には、結晶成長法で合成された単結晶試料が適している。一方Bdmでは、溶融含水メルトと、結晶を共存させる結晶成長法により、最大~200 μm程度のBdmの単結晶の回収に成功した。回収されたBdm単結晶は自形の発達した形をしており、色は透明で、高品質であった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題では、水に富んだ沈み込むスラブ中の温度圧力領域における熱力学的に安定な鉱物間の水の分配を明らかにすることを目的とし、具体的には以下に示す2つのステップに従い研究を進めている。 ①安定な水素配置をもつマントル鉱物の単結晶試料合成手法の開発 ②沈み込むスラブの低温領域における無水鉱物・含水鉱物間の水の分配を決定 初年度は①の単結晶試料合成手法の開発に注力し、研究を行った。具体的には、上部マントル最主要鉱物であるカンラン石(Olivine:Ol)と、下部マントル最主要鉱物であるブリッジマナイト(Bridgemanite: Bdm)の単結晶合成に取り組んだ。 Olでは、結晶の融点付近から、徐々に温度を下げていき、結晶を成長させるSlow cooling法により最大で~500 μm以上の大きさの単結晶が得られた。一方でslow cooling法に加え、10度程度の温度揺動を加えても大型の単結晶育成にはほとんど効果がないことが明らかとなった。本研究で得られた結晶は、内部に包有物を含まず高品質であり、各温度圧力条件における最大含水量に近い水を含んでいた。また、拡散法と結晶成長法で含水された試料には、赤外スペクトルに大きな違いがあることが明らかになった。赤外スペクトルは結晶中の水の入り方を反映しており、拡散法は実験前の試料の欠陥の影響が反映されている可能性がある。そのため、単結晶試料を用いた物性測定実験には、結晶成長法で合成された単結晶試料が適している。一方Bdmでは、溶融含水メルトと、結晶を共存させる結晶成長法により、最大~200 μm程度のBdmの単結晶の回収に成功した。回収されたBdm単結晶は自形の発達した形をしており、色は透明で、内部に包有物を含まず高品質であった。 2年度目以降は、①により開発した単結晶合成手法を用い、含水量の異なる単結晶無水鉱物を合成し、②に取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度に取り組んだ、①安定な水素配置をもつマントル鉱物の単結晶試料合成手法の開発に基づき、含水量の異なる無水鉱物の単結晶試料を合成する。続いて、無水鉱物・含水鉱物間の水の分配実験を行う。無水鉱物は①で合成した含水量の異なる無水鉱物の単結晶試料を同一実験において2種類以上用いる。含水鉱物には天然の試料粉末またはその組成となるように秤量された酸化物の混合体を用いる。無水鉱物単結晶の周囲を含水鉱物で覆うように配置する。カプセル材には水の封入に最適と考えられている金、もしくは金パラジウムを用い、実験前後で水の出入りがないように、溶接する。 本研究では、含水鉱物が安定な低温条件から分解する高温条件までの幅広い温度条件での実験を予定している。高温条件では比較的短時間(~1-10時間)で平衡に達すると考えられる一方で、低温条件では熱力学的に安定するまで長時間を要することが予測される。そこで、最も低温条件でタイムスタディを行うことで、保持時間を決定する。含水量の異なる単結晶試料の含水量が同量になったことを確認することで、熱力学的に安定に達したことを確認し、本研究結果として採用する。 この結果をもとに、沈み込むスラブの挙動を明らかにし、そこに起因する深発地震の機構に関する新たな知見を得ることを今後の目標とする。
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Causes of Carryover |
初年度は、当初消耗品費用として計上していた、WCアンビル(1組・8個:20万円)の破損が、当初想定より少なく済んだ。そのため、初年度計上していた経費に繰り越しが生じた。しかし、WCアンビルは消耗品であり、時には一回の実験で全破損し使用・実験不可となるため、2年度に繰り越した費用でWCアンビルを購入予定である。
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Research Products
(7 results)