2023 Fiscal Year Research-status Report
シート状伝送媒体を介した安全かつ広範囲な無線電力伝送
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23K13330
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増田 祐一 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 特任研究員 (20856231)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 無線電力伝送 / 2次元通信 / 磁界結合 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,薄く柔軟なシート状の導波路を介し,安全で広範囲なワイヤレス給電システムの開発を目指す.導波路は特殊な導体パターン構造を持ち,この構造の働きにより電磁波は導波路表面のごく近傍に一部漏れ出ながら伝搬していく.人や物への電磁暴露を最小限に抑えつつ,伝搬方向に対しては効率的に電磁エネルギーを伝えていくというユニークな特徴を持つ. 導波路に近接する受電端末は,導波路近傍の漏れ電磁波と電磁気的に結合し,内部の電磁エネルギーを非接触で吸い出す.本年度までには,導波路の導体パターンや電磁波周波数を見直すことで,従来はデスクマット程度が限界であった給電範囲を10 m規模まで拡大し,かつ電力規模を数Wから数100W規模まで拡大した. 一方で,受電端末が大型化する課題があり,この課題を克服するため本年度では,手のひらサイズの受電端末でも十分な性能を実現する新たな導波路構造の開発を目標とし,電磁界シミュレーションによる性能検証や,複数回のプロトタイプ作成と給電試験を繰り返し行った.その結果,以下の新たな課題を見出すことができた. 1)提案のコイルパターンでは磁場を打ち消し合う構造が含まれている関係上,給電効率は70 %程度で頭打ちとなる.2)6.78 MHz帯では良好な磁性体がなく,磁気シールド構造により受電端末全体が大型化する. 特に磁性体がない課題は,目標の一つに掲げていた給電シートの漏洩磁場抑制方法の開発を行う上でも重要な要素となる.調査を進めた所,ワイヤレス給電に適した磁性体は100-200 kHzの周波数帯域に多くあることが判明した. そこで,導波路構造を見直し,利用周波数を100 kHz程度まで低めることに成功した.これにより,より効率的でコンパクトな磁気シールドが見込めるだけでなく,低周波であるほど導体の損失が低下する傾向にあるため,給電性能の改善にも期待できる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度では,磁場結合が可能なコイルパターンを持った導波路を試作し,手のひらサイズの受電コイルに対してどの程度の給電性能を実現できるのかを目標に研究開発を進めた.導波路の設計と試作を繰り返す中で,提案構造で実現可能な給電性能が評価できただけでなく,狙い通り提案構造では導波路に均一な磁場が形成され,導波路上のどこででも,導波路と受電コイルとの良好な磁気的結合が実現可能であることが明らかとなった.従来の受電端末が1×0.5 m程度の大型なもので,かつ導波路に沿う方向に受電端末の向きを揃える必要があったことを考慮すると,手のひらサイズで,かつどの向きであっても給電性能が変わらない受電端末を実現できたことは大きな成果である, また,試作を通して,磁場を介した給電特有の難しさが見えてきた.より高効率かつ安全な給電を行うためには如何にして磁場を効率的に閉じ込められるかが重要であり,それにはフェライトなどの磁性材料が鍵となる.当初想定していた6.78 MHz帯では有望な磁性材料がなく,この課題解決のため,利用周波数を100 kHz程度まで低める必要があった. 6.78 MHzと100 kHzではその真空波長の違いから,100 kHzに対応するためには,従来の70倍近い波長短縮性能が導波路に求められる.これは非常にチャレンジングな課題であり,導波路構造が想定よりも非常に複雑で精度が求められるものとなったが,試作業者を選定し,この100 kHz対応導波路の試作に成功した.これにより,目論見通り磁性体材料がうまく機能し,良好な磁気シールドを実現しつつ,導波路上のどこででも安全かつ広範囲な無線電力伝送を実現した.これは当初予定していなかった成果であり,計画以上に研究開発が進展するきっかけとなった.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,次の3つを計画している.①給電効率の上限を明らかにする,②給電効率を最大化する,シート端での反射制御システムの開発,③給電シートの漏洩磁場抑制方法の開発.この内,①に関しては様々なパラメータでのシミュレーションや試作を通じて知見が蓄積されており,③に関しては,上述の100 kHzに対応した導波路の試作に成功したことで,高性能な磁性体を用いて漏洩磁場が抑制できることを実験的に確認している.今後の研究方針としては,まず残る②に関しての研究開発を進める一方で,給電性能向上のために,より低損失な導波路構造の設計に取り組む. 提案導波路は構造上,磁場を打ち消し合う部分が生じるため,それが給電性能を損ねている.これをカバーするためには,打ち消し合う部分がなく,かつ導波路上にムラなく滑らかな磁場を形成できるようなコイルパターンが必要となる.こうした課題は,リニアモーターなどモーター分野にヒントを得ることで解決できるのではないかと考えている. ②の給電効率を最大化する反射制御システムは,反射波によって導波路全体に定在波が形成され,受電端末の位置によって給電性能に大きなばらつきが生じるため,定在波の腹と節の位置を制御することにより高効率な給電を維持することを目標としている.給電性能を指標とする一方で,システムの複雑さにも注意しなければならない.例えば,定在波の腹を導波路上のどこに設定するかを決めるため,受電端末の位置をどのようにセンシングするのか.または,センシング不要な別の解決策はないのかを検討し,システムの実装と評価を目指す.
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Research Products
(4 results)