2023 Fiscal Year Research-status Report
Elucidating origin of the trade-off relationship between tensile strength and resistance to hydrogen embrittlement in martensitic steels from a view point of local deformation behavior
Project/Area Number |
23K13541
|
Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
岡田 和歩 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 構造材料研究センター, 研究員 (30964910)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 水素脆性破壊 / マルテンサイト鋼 / 画像相関法 / 粒界破壊 / 局所応力集中 |
Outline of Annual Research Achievements |
鉄鋼材料は強度が上昇するほど耐水素脆化特性が低下する.このトレードオフ関係は,高強度鋼の実用化において大きな障害となっている.しかし,『強度上昇に伴う耐水素脆化特性低下の起源は何か?』というシンプルかつ重要な「問い」に対して明確な答えは未だない.そこで本研究は,代表的な高強度鋼であるマルテンサイト鋼の水素脆性粒界破壊を対象とし,“局所変形挙動”の観点からこの「問い」の答えに迫る. 合金の炭素組成と熱処理条件を変えることで,1.15~1.65GPaの種々の引張強度を有する焼入れままマルテンサイト鋼(4種)を作成した.これらの材料に対し,陰極電解水素チャージにより水素を導入した後,単軸引張試験を行い,破断強度から水素脆化特性を評価した.いずれのマルテンサイト鋼においても水素量の増加とともに破断強度が低下するが,水素による破断強度の低下には下限があり,下限値は組織によって異なることがわかった. 上記のマルテンサイト鋼の水素チャージ材はいずれも,旧γ粒界という特定の結晶粒界を起点として破壊していた.そこで,引張試験中その場SEM観察と画像相関法を組み合わせることで,微視組織と対応した局所応力集中挙動を調べた.旧γ粒界近傍では,旧γ粒界から離れた領域に対して,平均して10~20%程度,局所的には2~3倍高い局所応力が働いていることがわかった.さらに,水素による破断応力の低下が顕著なマルテンサイト鋼ほど,旧γ粒界への局所応力集中が大きいことが明らかとなった.したがって,旧γ粒界への局所応力集中と強度上昇に伴う耐水素脆化特性低下には密接な関係があると考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2023年度に終了させる予定であった力学特性評価・破面観察は,計画通り終了した.また,当初計画では2024年度に終了させる予定であった画像相関法による局所応力・局所ひずみ測定についても,本年度(2023年度)中に既にその大部分を完了している.その結果,『強度上昇に伴う耐水素脆化特性低下の起源』に迫る成果が得られた.さらに,J-PARC(BL19 TAKUMI) にて中性子回折実験を行い,回折データの取得を終えている.以上の理由から,本研究は当初の計画以上に進展していると考える.
|
Strategy for Future Research Activity |
2023年度は,旧γ粒界への局所応力集中と強度上昇に伴う耐水素脆化特性低下には密接な関係があることが明らかとなった.今後は,なぜ,異なる引張強度を有するマルテンサイト鋼では局所応力集中挙動が異なるのかを,旧γ粒界におけるバリアント選択の観点から考察していく. また,局所応力集中に関する上記の結果は,実験手法の制約上,未チャージ材(水素なし)に関するものである.今後は,J-PARC(BL19 TAKUMI) にて,水素チャージ材の引張試験中その場中性子回折実験により得られたデータを解析することで,水素がマルテンサイト鋼の弾性・塑性変形挙動に及ぼす影響を詳細に明らかにしていく.
|
Causes of Carryover |
当初計画では,2023年度にSEMモンタージュ撮影システムを導入するための設備備品費を計上していたが,様々な検討の結果,機械による自動モンタージュ作成を行うと,画像結合部のゆがみが画像相関解析に悪影響を及ぼすことが明らかとなった.そこで,モンタージュ作成はひずみ解析後に手動で行うこととし,研究の進行を加速するため,引張試験中その場SEM観察を受託分析として外部に依頼した.受託分析費用として「物品費」から「その他」へ移動を行い、「その他」を当初予定より多く使用した. 2024年度に繰り越した物品費は,引張変形中のひずみ変化を正確に計測をするため,引張試験機への機能追加を目的とした設備備品費,および試験片加工費として使用する計画である.
|