2023 Fiscal Year Research-status Report
高酸化度複雑天然物合成法の革新と高度一般化を志向したアガロフラン類の効率的全合成
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23K13740
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤野 遥 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 特任助教 (60897023)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 全合成 / テルペノイド / 中分子 / ラジカル反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本若手研究は、創薬標的として有望だが未活用である高酸化度アガロフラン類を研究題材天然物として設定し、その効率的な合成戦略を開発することを目的とする。本天然物群は、ABC三環性炭素骨格に多数の酸素官能基が集積した、極めて複雑な化学構造を有する。その全合成に際しては複雑な三次元化学構造を完全に再現する必要があり、現代の有機合成化学の発展をもってしても極めて困難な点が多い。我々は、入手容易な糖鎖を原料として設定し、炭素-炭素(C-C)結合形成を介した糖鎖の連結と環化により、高酸化度アガロフラン類を合成できると考えた。この際、原料である糖鎖の備える多数の酸素官能基・不斉中心を最大限活用することで、これまでの合成研究において最大の課題であった立体選択的な酸素官能基化反応数を最少化できる。糖鎖は化学構造多様性と入手容易性に富む普遍的炭素資源であり、本合成戦略は他の高酸化度天然物全合成へと展開できうる。 今年度は、第一に、原料である糖鎖の立体選択的な炭素鎖伸長と分岐を経て、アガロフラン三環性炭素骨格を構築する全15炭素を備えた鎖状の鍵中間体合成法を確立した。第二に、反応条件を精密に最適化し、B環構築を達成した。次いで検討したA環構築では、所望の様式でのA環環化は実現できなかった。しかし、官能基許容性の高いラジカル条件を環化反応に適用することで、合成中間体の有する多数の酸素官能基を損なわずに二環性構造を構築できるという重要な知見を見出した。現在、C環、A環の順に環化する合成経路の検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度、本若手研究課題を遂行する中で、次のような重要な進展があった。 (1) 安価に入手容易な糖を出発原料として設定し、その酸素原子・立体化学を最大限に活用することで、炭収束的な炭素鎖伸長・分岐を経た短工程での高酸化度合成中間体の合成法を確立した。鍵となる炭素鎖伸長・分岐工程では、立体選択的にC(sp3)-C(sp3)結合を形成する必要がある。我々は、合成上使用が必要不可欠な保護基を戦略的に配置し、反応条件を精査することで、本分子変換が可能であることを見出した。 (2) (1)で合成を完了した高酸化度鎖状基質に対して、その多数の酸素官能基を損なわずに所望のB環環化が進行する、極めて新規性の高い反応を見出した。本工程を達成することで極めて効率的にB環環化体を得ることができたため、標的天然物の合成経路の圧倒的な効率化につながる重要な知見が得られた。 (3) B環環化につづいてラジカル条件によるA環環化の検討を行い、実際に高い官能基許容性で二環性骨格の構築が進行することを見出した。天然物のA環構造と合致する所望の環形成ではなかったものの、当初の作業仮説通り、ラジカル環化反応が複雑に縮環した高酸化度炭素骨格の構築に有用な信頼性の高い手法であることを実証した。加えて、本年度の検討により、環化様式に影響する基質の化学構造要件を精密かつ系統的に嫌価にすることができた。したがって、本項目で得た知見は、次年度に本研究を飛躍的に進展させるために重要な手がかりを与えるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は、本年度に得ることができた知見を最大限に活用し、既に合成したB環を備える高酸化度中間体から標的天然物への全合成法を確立する。環構築の順序を変更し、C環、次いでA環の順に合成を進める。既に、C環構築の足がかりとなる官能基変換は実現しており、C環構築の本格的な検討のための基盤は整っている。その後、今年度明らかにしたA環環化に必要な化学構造要件を終盤の合成中間体の戦略的な設計に適用し、環化基質の合成を進める。最後に、ラジカル条件によりA環形成を行い、全合成を達成する。
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Causes of Carryover |
主に、試薬などの消耗品コストを抑制できた。次年度は、本年度に確立した鍵中間体を大量合成のうえ、さらなる先の合成ルート開拓を行う必要がある。そのため次年度は、当初の請求額に加えて本年度の余剰額を、試薬などの消耗品コストに充てる必要がある。
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Research Products
(6 results)