2023 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属錯体を用いた触媒的メカノ窒素固定反応の開発
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23K13758
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
杉野目 駿 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (50962271)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 窒素固定 / メカノケミストリー / アンモニア / 小分子活性化 / 還元反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
窒素分子を温和な条件下で効率よくアンモニアへと変換する反応系の開発はエネルギーの観点から極めて重要である。本研究では、従来の遷移金属錯体による窒素固定反応で必ず用いられてきた「溶媒」を敢えて取り除いた反応系(ボールミルによるメカノケミカル反応)を構築することで、この課題に取り組んだ。テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いた均一系での反応条件を参考に、常圧の窒素雰囲気下、還元剤としてヨウ化サマリウム、プロトン源として水、触媒としてピンサー配位子を有するモリブデントリヨード錯体をボールミルにより 60 分間反応させた。その結果、無溶媒条件下におけるボールミルを用いたメカノケミカル反応において触媒あたり 30 当量のアンモニアが生成した。同時に、触媒あたり15 当量の水素が副生成物として発生した。 次に、固体のアルコールであるペンタエリスリトールをプロトン源として用いた。その結果、触媒あたりアンモニアが 49 当量、水素が 14 当量生成し、プロトン源として水やエチレングリコールなどの液体のプロトン源を用いた時よりもアンモニアの選択性が向上した。これは、液体のプロトン源を用いた場合と比べ、ヨウ化サマリウムとプロトン源が直接接触しアンモニアの生成前に基質が消費されてしまう現象が抑制されたためであると考えられる。また、興味深いことに、不溶性の糖であるセルロースを用いてメカノケミカル反応を行った場合にも、高収率かつ高選択的にアンモニアが得られた(アンモニアが触媒あたり44当量、水素が1当量生成)。これはセルロースをプロトン源、THF を溶媒として用い均一系での反応を行うとアンモニアがほとんど生成しなかったことと対照的な結果である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は主に、メカノケミカル窒素固定反応の最適な反応条件を確立すべく、ピンサー型配位子を有するモリブデン錯体を触媒とした反応におけるプロトン源のスクリーニングを行った。徹底的なスクリーニングの結果、液体のプロトン源にくらべ固体のプロトン源が高い選択性を示すことなど、従来の均一系反応にはみられないメカノケミカル反応特有の反応性を見出した。また、極めて興味深いことに、地球上に豊富に存在するが、不溶性のため均一系条件では反応性に乏しいセルロースを用いた反応を見出すことにも成功した。加えて、触媒反応条件の最適化により、無溶媒のメカノケミカル条件でのアンモニア合成におけるモリブデン錯体の触媒回転数は860に達した。今回得られた結果は、今後のメカノケミカル窒素固定反応の発展の端緒となることが予想される重要な成果であり、研究課題は概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度に達成した、モリブデン錯体を触媒とする常温常圧下における窒素分子とヨウ化サマリウム、プロトン源の反応によるアンモニア合成に関して、量論反応やX線回折・吸収測定などを通じてメカニズムの解明を行う。つづいて、当初の計画通りメカノケミカル反応に特有の反応性をさらに探っていく。令和6年度はヨウ化サマリウム以外の還元剤のスクリーニングや、モリブデン以外の金属錯体の利用を中心に検討する予定である。特に大きな目標として、メカノケミカル反応特有の反応性を生かして、これまでにほぼ報告例のない、モリブデン以外の金属錯体を用いた常温常圧下での窒素固定反応に挑戦していく。
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Research Products
(13 results)