2023 Fiscal Year Research-status Report
微弱π相互作用を駆動力とする生体分子分離空間の創成
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23K13774
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
金尾 英佑 京都大学, 薬学研究科, 助教 (40895166)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 液体クロマトグラフィー / プロテオミクス / LC/MS/MS |
Outline of Annual Research Achievements |
抗体医薬品の糖鎖解析は,酵素処理によってタンパク質から糖鎖を切り出し,高分離能の分離剤を利用したLC/MS/MSによる解析を行うボトムアップ法が主流であるが,核酸やペプチドと比べて分岐構造が多く,立体配座や結合様式も多様な糖鎖の分離技術の開発は,未だ重要な課題である。また,抗体に修飾された糖鎖は,その立体構造や機能と密接に関係しており,タンパク質のプロテオフォーム(内在性プロテオリシスや翻訳後修飾体も含めた一次配列に基づくタンパク質多型)を解明する上で,タンパク質内部の糖鎖をインタクトに分離・分画する技術も求められる。これまでの研究で,ナノカーボン材料の最小単位であるフラーレンに着目し,フラーレンと糖鎖の間に働く非常に弱い化学的相互作用を理論的,実験的に明らかするとともに,フラーレンによる糖鎖分離の可能性を示してきた (Sci. Rep. 2020)。糖鎖は,フラーレンに巻き付くような形で超分子を形成し,糖鎖のC-H, O-H結合とフラーレンの芳香環の間で働くCH/OH-π相互作用が糖鎖分離の駆動力となっていることが明らかとなった。本年度は,シリカモノリスとC60-fullereneの間にMw = 200の親水性polyethylene glycol (PEG) スペーサーを導入した新規カラムを開発した。通常のフラーレンカラムでは,基材のシリカモノリスとフラーレン間の距離が近いため,立体障害によって糖タンパク質のインタクトな分析を行うことができない。一方,PEGは,高い親水性と排除体積効果によって,生体高分子の非特異的な吸着を抑制しつつ,糖タンパク質の内部糖鎖構造とフラーレンとの分子間相互作用を可能にする。開発したカラムを用いて,IgAのLC/MS/MS分析を行った結果 IgAサブクラスのピークを複数同定することに成功しており,インタクトな糖鎖分離に成功したことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学外での成果報告,学術論文の出版を積極的に行った。本年度は,生体分子の中でも糖鎖・糖たんぱく質に着目した研究を遂行しつつ,生体分子分離におけるCH/OH-π相互作用の重要性を見出した。2024年度は,これまでに得られた分子間相互作用に関する知見を統合し,生体分子の精密な分離空間を構築することで,主にプロテオミクスの速度・網羅性・感度・深度の向上を図る。
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Strategy for Future Research Activity |
π相互作用を発現するポリマー材料を利用した新規固相抽出カラムを設計する。これにより,プロテオームの前処理過程として必須である脱塩のサンプルロスを低減させる。さらに,π相互作用が有機溶媒中で強く働くことに着目し,高有機溶媒濃度の移動相を使用した分離モードをLC/MS/MSに実装する。高有機溶媒濃度の移動相は,カラム背圧の低減やESI-MSのイオン化効率上昇などの利点があり,上述の目的に沿った戦略であると言える。
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