2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of a Novel Derivatization Method for Analysis of Nerve Agent Adducts in Biological Samples
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23K13777
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Research Institution | National Research Institute of Police Science |
Principal Investigator |
山口 晃巨 科学警察研究所, 法科学第三部, 研究員 (50822087)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ノビチョク加水分解物 / LC-MS/MS / ペンタフルオロベンジル誘導体化 / DABCOによる試薬除去 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、新たな神経剤A剤(ノビチョク)の使用証明法を開発することです。A剤は、近年海外で発生した暗殺(未遂)事件に関与しており、その使用証明は危機管理上重要な課題です。本研究では、ペンタフルオロベンジル(PFB)誘導体化後の1, 4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン(DABCO)処理を組み合わせた誘導体化液体クロマトグラフィー–タンデム質量分析(LC-MS/MS)法を用いて、血清および尿中のA剤加水分解物および血清中のA剤-ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)付加体の検出を目指しました。 まず、A剤添加血清および尿を調整し、アセトニトリルによる血清および尿のタンパク除去を行い、残渣にアセトン、PFB-Br、トリエチルアミンを加えて反応させました。さらに、DABCOのトルエン溶液を加えて後処理を行い、LC-MS/MSで分析しました。 その結果、DABCOを用いる誘導体化反応の後処理により、血清試料の検出感度が1-2桁向上しました。血清および尿中の6種類のA剤加水分解物について、本法は従来法(HILIC-MS/MS, DMT誘導体化LC-MS/MS)に比べて1-2桁高い検出感度(LOD: 0.1 ng/mL以下)を示しました。 また、従来不明だったPAMによるBuChE活性の回復をEllman’s assayで確認し、A剤-BuChE付加体からの使用証明にも本法が有効であることが分かりました(検出下限: A剤代替物スパイク濃度0.5-2.0 ng/mL)。 この研究により、A剤の使用証明において実用上十分な検出下限を得ることができ、危機管理上の重要な進展をもたらしました。今後は、この検出法をさらに改良し、他の神経剤やその代謝物にも応用可能な包括的な検出法の開発を目指します。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究成果として報告した内容は、本研究課題開始時には想定していなかったものである。具体的には、ノビチョクの新たな誘導体化分析法を開発し、血清および尿中のA剤加水分解物および血清中のA剤-ブチリルコリンエステラーゼ(BuChE)付加体の検出を行った。この成果は「Analytical Chemistry」誌に掲載された(Anal. Chem. 2023, 95, 36, 13674-13682)。この成果は想定外であったが、喫緊の課題である新規神経剤の使用証明において新手法の確立および報告を優先した。なお、新規神経剤の新規誘導体化分析法の開発という点で本研究の目的には合致している。 当初の目的であるチロシンアダクトの分析法についても進展があった。現在、新規神経剤―チロシンの付加物の標準物質を安定供給するための合成法を確立した。この標準物質は合成法が未報告の化合物群である。これにより、今年度からこの標準物質を用いた検討を開始し、この検討結果を基に、当初予定していた新規誘導体化分析法の開発を遂行する計画である。 以上のことから、これまでの進捗は順調であり、今後の研究の展開に向けて必要な基盤が整っていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、新規神経剤A剤―チロシンアダクトの分析法の確立を行う。具体的には、標準物質合成法の最適化及びスケールアップを実施し、検討に必要な標準物質の安定供給体制を確立する。この内容も論文として報告する予定である。 また、神経剤―チロシンアダクトの新規誘導体化反応検討のための試薬および機器は既に確保しているため、それらを用いた網羅的な検討を行う。この検討により、当初期待していた反応がどの程度進行するか、どのような副反応が生じるか、どのようなマトリックスや試薬がLC-MS分析における妨害となるかを理解する。
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Causes of Carryover |
以下2点の理由により次年度使用額が生じた。①当初購入予定であった設備備品(遠心エバポレータ、単価800,000円)が、保有設備の修理等により使用可能になったこと、および②参加予定だった国際会議(OPCWミーティング、金額500,000円)がオンラインでの開催となったことから。 これら予算の使用計画は以下のとおりである。①神経剤-チロシンアダクト合成のためのビルディングブロック購入(前年度の反応条件検討により最適なビルディングブロックが判明したため、今年度以降は効率化のために購入する)、②光反応用光源およびその他試薬・器具(光による脱炭酸反応の分析前処理への応用を検討する)、③最終年度に国際学会に参加し研究成果を報告する(62nd Annual Meeting of TIAFT(国際法中毒学会))
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