2023 Fiscal Year Research-status Report
マイコウイルスを活用した糸状菌の機能強化に向けて宿主特異性を理解する
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23K13927
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒木 美沙 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (20910904)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | Aspergillus flavus / Aspergillus oryzae / 麹菌 / マイコウイルス / 菌糸融合 / 共生 / 遺伝子発現 |
Outline of Annual Research Achievements |
Aspergillus flavusでは、自然単離株のうち10 %程度でウイルスが検出されている。自然単離菌からウイルスが脱離した場合の宿主菌の表現型の変化について、投稿論文を執筆した。 A. flavusについては、複数の菌株複数の菌株間でウイルスを伝播させた菌株を確立済みである。【1年目】にはさまざまなウイルス-宿主菌株の組み合わせについて、RNAサイレンシングをはじめとした宿主の細胞活動を観察した。ウイルスの検出は、コロニーをテンプレートとしたワンステップRT-PCRあるいは培養菌体から長鎖二本鎖RNAを抽出することにより行った。遺伝子発現解析は菌体から抽出したtotalRNAを用いてNGSライブラリーを調整し、NGS解析は外部委託により実施した。同一ウイルスに対して宿主菌株による応答がどう違うか、同一宿主においてウイルス種による違いはあるかを比較し、宿主適合性とその適合の可否を決定する原因となる細胞活動を探索した。 並行して、宿主菌種を超えた場合のウイルスの伝播にも着手した。酒や醤油、味噌など日本の発酵食品で多く用いられるAspergillus oryzaeは、A. flavusとごく近縁であるにもかかわらず、これまで一度もウイルスが検出されていない。そのため、A. oryzaeに特有の、ウイルスが伝播しづらい、ウイルスが適合しにくい、あるいは育種の過程でウイルスフリー株が選抜されやすい原因があると考えられる。【1年目】にはA. flavus由来のウイルスをA. oryzaeに伝播させた。これまでA. flavus同士ではごく一般的な培地上でウイルスの伝播を誘導していたが、近縁とはいえ異種であるA. oryzaeへのウイルス伝播には、A. oryzaeにおいて確立されている菌糸融合を効率化させる培地条件を用いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定ではA. flavusにおいて同一種内でウイルスが安定維持される菌株とそうでない菌株について、RNAサイレンシングをはじめとした宿主の細胞活動を観察することで、ウイルスが脱離していく様子を段階的に捉えていく予定であった。産前産後休暇および育児休暇の取得により6ヶ月ほど研究が完全に停止してしまった、また産前休暇以前も体調不良などにより通常のような勤務が難しい期間があったため、連続的な解析が必要な本実験には着手することができなかった。 その代わり、本来【2年目】に着手予定であったA. oryzaeへのウイルス伝播に取り組むことができた。この実験は以前に取り組んだ際まったく伝播が起こらなかったため困難を極めることを予想していたが、菌糸融合効率を上昇させる培地条件を取り入れたことでスムーズに進行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まず【2年目】には、【1年目】に解析した、同一のウイルスを伝播させた複数の菌株同士の比較について投稿論文を執筆する。 【2年目】は、【1年目】に着手できなかった、A. flavusにおいてウイルスを脱離する株と安定維持する株の比較に取り組む。ウイルスの感染状態の経時観察と並行して、宿主糸状菌の表現型解析や化合物産生、遺伝子発現などを観察し、宿主適合性とその適合の可否を決定する原因となる細胞活動を探索する。【3年目】には探索してきた因子に関わる遺伝子改変株を作出し、ウイルスの適合度への影響を観察する。遺伝子改変はCRISPR-Cas9を用いた二回相同組換えにより行う。 また、【2年目】にはA. oryzaeでのウイルス伝播について、細胞間連絡に異常のある株や、菌糸融合効率が低い菌株間での伝播を観察する。それぞれの菌株における遺伝子発現を解析し、A. oryzae細胞内で起きているウイルス排除機構を観察する。【3年目】には、ここまでの結果を論文として発表するとともに、A. oryzaeにウイルスを維持させる技術の開発に取り組む。
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Causes of Carryover |
当初の予定ではA. flavusにおいて同一種内でウイルスが安定維持される菌株とそうでない菌株について、RNAサイレンシングをはじめとした宿主の細胞活動を観察することで、ウイルスが脱離していく様子を段階的に捉えていく予定であった。産前産後休暇および育児休暇の取得により6ヶ月ほど研究が完全に停止してしまったため、また産前休暇以前も体調不良などにより通常のような勤務が難しい期間があったため、連続的な解析が必要な本実験には着手することができなかった。 【2年目】に、【1年目】に着手できなかった、A. flavusにおいてウイルスを脱離する株と安定維持する株の比較に取り組む。ウイルスの感染状態の経時観察と並行して、宿主糸状菌の表現型解析や化合物産生、遺伝子発現などを観察し、宿主適合性とその適合の可否を決定する原因となる細胞活動を探索する。
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