2023 Fiscal Year Research-status Report
Development of a numerical model for multidimensional and quantitative evaluation of heat tolerance of rice cultivars in grain filling
Project/Area Number |
23K13940
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
戸田 悠介 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農業環境研究部門, 研究員 (80887224)
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Project Period (FY) |
2023-01-20 – 2027-03-31
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Keywords | 高温耐性 / 高温登熟性 / イネ / 玄米品質 / 白未熟粒 / 統計モデル / ベイズ統計 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球温暖化に伴うイネの種子成長(登熟)不良による品質低下に対して、高温でも登熟できるイネ品種の開発が進められている。しかし、現在の品種の高温登熟性は、品種間の相対的な比較に基づく定性的な指標で評価されており、各品種の持つ多様な環境応答性を表せていない。そこで本研究は、各品種の玄米品質が受ける気象要因の影響をモデル化し、高温登熟性の多様な品種間差を多面的かつ定量的に数値化する。 2023年度は、申請者の育児休業取得にともない実質的な研究期間が約4か月間となったため、予定していた研究内容の一部を実施した。若月ら (2023)によって公開された玄米品質と開花日付近の気象統計量のデータセットを活用することで、白未熟粒率に与える気象要因の効果を品種ごとに推定した。推定に使用する数値モデルには、若月ら(2023)の提案したモデルを拡張して用いた。もともとのモデルでは各品種に紐づく5段階の高温登熟性ごとに高温耐性の特性が評価されていた。本研究ではベイズ統計の手法を活用することで、それを品種ごとの評価に拡張することに成功した。その結果、従来の基準では同程度の高温登熟性と評価されていた品種の中にも、異なる高温耐性を示す品種が存在することが示され、数値モデルを通じた評価の重要性を改めて確認できた。 本研究課題は育児休業に伴う研究期間の延長が認められたため、今後は基本的に当初の3年間(2023-2025年度)の計画を1年ずつ遅らせて実施する。ただ、シミュレーションなど数値計算の研究活動は、2023年度の成果をもとに計画を前倒しして進める予定である。また栽培試験については、高温耐性に関連する遺伝子を持つ種子を2024年度に増殖できるようになったため、最終年度に予定されていたQTLの効果を評価する試験は1年前倒しして遂行できる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画における2023年度の研究内容は、若月ら(2023)により公開された玄米品質データと「メッシュ農業気象データ」として整備された気象データを統合し、白未熟粒率に与える気象要因の影響とその品種間差について解析するというものであった。ただ、申請者は2023年4月25日から7月31日まで、および12月1日から2024年4月11日までの期間で育児休業を取得したため、実質的な研究期間は約4か月となった。そこで本年度は、公開済み玄米品質データとそれに含まれる出穂日付近の気象統計量に解析対象を絞り、可能な範囲でイネ品質と気象要因との関連性を表現する数値モデルを開発することとした。 数値モデルとして、品種間差を考慮できるよう若月ら(2023)の提案したロジスティック回帰モデルをベイズ統計で拡張したモデルを実装した。また、このモデルのロジスティック関数を区分線形関数で置き換えたモデルも実装した。これは、パラメータ解釈の難しいロジスティック回帰モデルの対案として、パラメータの役割が分かりやすい区分線形関数を導入したものである。 実際にこれら2つのモデルを用いて白未熟粒率が気象要因から受ける影響を品種ごとに推定した結果、従来の基準では同程度の高温耐性と判定されている品種の中にも、推定されたパラメータの間には有意な品種間差が認められるものが存在した。これにより従来の評価手法の限界、および本研究課題で提案する定量的指標の導入の重要性が改めて浮き彫りとなった。 使用した2つのモデルを比較すると、ロジスティック回帰モデルが区分線形関数モデルを上回る推定精度を示し、パラメータの解釈の容易さと推定精度がトレードオフのような関係になっていることが分かった。推定結果の統計処理のしやすさも考慮して、2024年度以降はロジスティック回帰モデルを採用し、これを更に拡張することとした。
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Strategy for Future Research Activity |
育児休業に伴う研究期間の延長が認められたため、本研究課題は基本的に当初計画していた3年間の計画(2023-2025年度)を1年ずつ遅らせて実施することとする。 本研究課題は大きく分けて、数値モデルの構築やシミュレーションといった数値計算と、栽培試験を通じたコメ品質の評価から構成される。このうち数値計算についての研究活動は、2023年度の成果をもとに計画を前倒しして進める予定である。2024年度は、過去の気象データであるメッシュ農業気象データを活用することで、2023年度に開発したモデルの拡張に取り組む。現段階のモデルは気象要因として、開花後20日間の気象データの平均を用いているが、適切な期間を品種ごとに推定することで、登熟期間の品種間差を考慮するモデルを開発する。検証を通じて数値モデルの構造が確定した後は、主に2025年度以降、その数値モデルで品種ごとに推定した品質パラメータを用いて、日本全国の栽培地域におけるコメ品質をシミュレーションすることで、各品種の詳細な品質評価に取り組む予定である。 栽培試験については2023年度、富山県農林水産総合技術センターおよび福井県農業試験場の協力を得て、高温登熟性QTLを組み込んだ遺伝子型とその背景品種の種子の供与を受けた。必要な種子については2024年度に増殖し、当初は最終年度のみで予定していた栽培試験を通じたこれら遺伝子型の品質評価を2025-2026年度に行う予定である。これにより、高温登熟性にQTLが与える効果をより正確に推定できるようになると期待される。
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Causes of Carryover |
申請者は2023年4月25日から7月31日まで、および12月1日から2024年4月11日までの期間で育児休業を取得し、2023年度の実質的な研究期間は約4か月にとどまった。これにより、当初予定していた研究計画の大部分を次年度に延期することとなり、また学会発表などの活動も行わなかったため、次年度使用額が生じた。発生した次年度使用額は、当初予定を前倒しして行われる種子増殖の費用として使用する。
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