2023 Fiscal Year Research-status Report
植物病原細菌のもつ標的タンパク質分解機構を利用した画期的な果実成熟制御技術の開発
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23K13941
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
岩渕 望 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (00888753)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 果実成熟 / MADS-box転写因子 / ファイトプラズマ / 葉化 / ファイロジェン |
Outline of Annual Research Achievements |
収穫前後における果実成熟過程の制御技術を開発し、品質・栄養・保存性を向上させることは食品廃棄を防ぎ、ひいては人々の健康維持・増進や、世界的な食糧問題の解決につながる重要な課題である。本研究では果実成熟を担う転写因子の機能を植物病原細菌ファイトプラズマのもつ病原性因子により制御することでこれまでにない画期的な果実成熟制御技術の確立を目的とする。これにより、植物ホルモンを中心とした既存の植物成長調整剤における課題を解決し、両手法を併用することであらゆる生理機能を標的とした統合的な果実成熟制御体系の構築を目指す。果実成熟を担う転写因子として、陸上植物に保存されたMADS-box転写因子(MTF)を標的とし、MTFの機能を制御する因子としてファイトプラズマの分泌タンパク質の一つであるファイロジェンを用いる。MTFはヘテロ複合体を形成し、果実成熟に関与する遺伝子の発現を制御することで成熟を促進する。ファイロジェンは花形成に関与するMTFと特異的に結合してプロテアソームに運び、分解を誘導する。そのため、果実の形成前にファイロジェンが作用すると各花器官の分化が阻害され、花の葉化を引き起こして植物は不稔となる。そこで、ファイロジェンを果実成熟開始以降に作用させることで、花器官の形成を阻害することなく果実の成熟のみを制御することを目指す。 本年度は植物ウイルスベクターを用いて果実成熟のモデル植物であるトマトにおけるファイロジェンの機能を評価した。加えて、ファイロジェンの分解標的となる果実MTFと、分解標的となるMTFの選択性メカニズムを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
花形成前からファイロジェンを発現させたトマトにおいて花の葉化が観察されたことから、トマトにおけるファイロジェン発現系を確立できた。一方で、開花・結実後からファイロジェンを発現させても果実の成熟度に顕著な影響は見られなかった。 ファイロジェンのMTFに対する分解活性と、ファイロジェンのMTFおよびタンパク質をプロテアソームへと運ぶシャトル因子との結合性を解析した結果、ファイロジェンは果実成熟に関与する複数のMTFの分解を誘導することを明らかにした。加えて、ファイロジェンによる分解標的選択性は従来考えられてきた「ファイロジェンとMTFの結合性」に加えて、「両者が結合した後のシャトル因子との結合性」という2段階で制御されていることを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
果実におけるファイロジェン発現量を増大させるため、開花・結実後における効率的なタンパク質発現系を構築し、葉化に伴う不稔性を抑えつつファイロジェンの機能解析を行う。
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Causes of Carryover |
ファイロジェンによる果実成熟への影響が観察されず、本年度計画していた網羅的な遺伝子発現解析を実施できなかったため未使用額が生じた。未使用額は次年度の遺伝子発現解析の経費に充てることとしたい。
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Research Products
(9 results)