2023 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of preventive mechanisms for neurodegenerative diseases through regulation of microglial function by marine carotenoids
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23K14018
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
高谷 直己 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (40801501)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 海洋性カロテノイド / ミクログリア / ミトコンドリア / フコキサンチン / 神経変性疾患 |
Outline of Annual Research Achievements |
神経変性疾患の発症には、ミクログリア機能破綻に伴う神経炎症亢進が関わる可能性が考えられている。ミクログリア機能を調節し神経変性疾患を抑制する薬物療法は未だ確立されていないため、そのような効果を示す食品成分を見いだすことができれば、神経変性疾患に対する有望な予防方策の一つとなることが期待される。そこで本年度は、ミクログリア機能改善のターゲットとして、炎症制御という観点から研究を進めた。まずは、ルテインやゼアキサンチンをはじめとした複数種の海洋性カロテノイドを培養ミクログリアに添加して、炎症誘導剤で刺激した際の抑制効果を評価した。炎症が誘起されたミクログリアではインターロイキン6(IL-6)などの炎症性サイトカインの遺伝子発現やタンパク分泌量が増加した一方、種々の海洋性カロテノイドを予め処置した細胞では下方制御された。特に、褐藻カロテノイド・フコキサンチンの誘導体分子(生体内での存在形態)は、他のカロテノイドと比較して低濃度でIL-6の発現増加を抑制できることが分かった。さらに、抗炎症機序の一端として、炎症シグナル経路の一つNF-κB p65のリン酸化阻害を介する可能性を見いだした。また、ミクログリアの極性(炎症型/抗炎症型)変化に関連する因子を調べたところ、炎症誘導剤により抗炎症型マクロファージマーカーCD206の発現低下を認めたが、フコキサンチン誘導体で予め処置したミクログリアでは上方制御された。次いで、フコキサンチン誘導体が脳組織に蓄積するかを確認するため、健常マウスへのフコキサンチン投与実験を行った。採取した全脳組織から抽出した総脂質成分をLC-MS分析に供したところ、フコキサンチン誘導体が検出された。一方、比較のため用いた血清検体のLC-MSプロファイルとは異なっていた。以上より、フコキサンチン誘導体は脳組織においてミクログリアの炎症を制御する可能性が推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画では、ミクログリア機能改善のターゲットとして、当該細胞の炎症制御能を持つ食品成分を探索することを目的としており、いくつかの海洋性カロテノイドが炎症誘導されたミクログリアに対して抗炎症作用を持つこと、特に、フコキサンチン誘導体は他のものと比較して低濃度で活性を示すことを明らかにすることができた。さらに、マウスへのフコキサンチン投与実験により、フコキサンチン誘導体の脳組織への蓄積が確認された。これらの結果は、フコキサンチン誘導体が脳組織においてミクログリアの炎症を制御する可能性を示唆するものであり、当初の目標はおおむね達成できたと考える。ところで近年、ミクログリア機能不全とミトコンドリア活性低下との関連が明らかとなりつつある。そこで、炎症誘導したミクログリアにおいてミトコンドリア活性の指標をいくつか調べたところ、炎症刺激によりミトコンドリア膜電位が低下する一方、フコキサンチン誘導体を予め処置した細胞ではその低下が抑制されることが分かった。興味深いことに、非炎症誘導条件においても、フコキサンチン誘導体はミクログリアのミトコンドリア膜電位を増加させた。さらに、遠心分画法により得た細胞小器官から抽出した総脂質成分をLC-MS分析に供したところ、粗ミトコンドリア画分にフコキサンチン誘導体の蓄積を認めた。これらの結果から、細胞内へと取り込まれたカロテノイドはミトコンドリアへと移行後、炎症制御において何らかの影響を及ぼす可能性が推察された。カロテノイドの作用標的の一候補として、ミトコンドリアが関わる可能性が示されたことは今後の研究展開を考える上で新たな視座を与えるものであり、意義深い成果と考える。以上より、現在までの進捗状況として、おおむね順調に進んでいるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、フコキサンチン誘導体をはじめとする海洋性カロテノイドが、炎症誘導したミクログリアに対して抗炎症作用を示すことに加えて、ミトコンドリア活性を増加させる可能性を見いだした。神経変性疾患病態下では、脳組織において炎症が増悪していることが知られるが、その要因の一つとして、ミクログリア機能破綻が推察されている。そこで今後は、老化促進モデルマウスや老齢マウスにフコキサンチンを投与し、加齢に伴って進行する認知機能低下に対する予防効果の検証を行う。具体的には、認知機能を評価する一般的な行動試験に加えて、脳組織における炎症状態や脳老廃物であるアミロイドβの蓄積を評価するための遺伝子発現やタンパク質発現解析を行う。さらに、ミクログリアの極性(炎症型/抗炎症型)変化や組織内分布を評価するため、免疫蛍光染色法による組織学的解析を行う。対照食で認められる上記指標の悪化が、フコキサンチン投与群で改善されるかを調べる。また最近、ミクログリアにおいてミトコンドリアを起点とする炎症増悪機構としてインフラマソームが注目されている。その活性化に対して、フコキサンチン誘導体をはじめとした海洋性カロテノイドが抑制作用を示すか調べる。予備検討では、炎症誘導剤と核酸物質の共刺激により、インフラマソームが活性化する条件を見いだすことができたため、今後はカロテノイドを処置した場合について検証する。これらの実験を通して、ミクログリアのミトコンドリアの活性調節作用を介した神経変性疾患予防機序の解明を目指す。 併せて、老化促進モデルマウスを用いて、アスタキサンチンならびに商業的にも重要なノリなどの紅藻カロテノイドによる認知機能に与える影響について評価する。これにより、海洋性カロテノイドの神経変性疾患に対する新たな予防機構を明らかにし、健康増進に向けた水産物利用のための基礎知見の集積を目指す。
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Causes of Carryover |
日々あらゆる価格が高騰する中、成果発表に係る出張行程を幾度も選定し直すことで費用を切り詰めた。その結果、研究成果は当初の目論見通り達成し、その成果発表も行うことができた一方で、想定以上に出費を抑えることができた。余剰分を次年度の旅費に充当し、さらなる研究発表を通して成果の社会還元に努める所存である。
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