2023 Fiscal Year Research-status Report
微量重金属栄養素に着目したチップバーン発生メカニズムの解明
Project/Area Number |
23K14048
|
Research Institution | Osaka Metropolitan University |
Principal Investigator |
江口 雅丈 大阪公立大学, 研究推進機構, 特任助教 (20876461)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | チップバーン / 植物工場 / 養液栽培 / ストレス応答 / 微量元素 |
Outline of Annual Research Achievements |
チップバーンは、葉の先端が褐変し枯死する生理障害である。人工光型植物工場でのレタス類の栽培において、チップバーンは、生産量と品質を低下させるだけではなく、発生部位の除去のために人的なコストの上昇も招くことから、その発生を抑制することが重要な課題の1つとされている。人工光型植物工場でのレタス類の栽培で発生するチップバーンの原因は、植物の成長速度と栄養吸収速度の不均衡によって起こる、葉の先端部での局所的なカルシウム欠乏であると考えられているが、そのメカニズムには不明な点が多い。本研究は、培養液中に栄養素として含まれる微量元素、特に重金属元素が環境条件によっては他の栄養素の吸収を阻害する要因となり得ること、あるいは植物にとってストレス源になり得ることに着目し、それらがチップバーン発生に及ぼす影響について検証することを目的としている。今年度は、微量元素の濃度と他の環境要因について栽培条件を複数水準設定してレタス類を栽培し、それぞれの条件下において、着目した微量元素がチップバーン発生にどのような影響を及ぼすか、明らかにすることを試みた。栽培試験は、温度、相対湿度、二酸化炭素濃度を制御できる、実験室内に設置されたグロースチャンバー内で行ったが、チップバーン発生の時期や程度の再現性は低く、今年度行った栽培試験の結果からは、微量元素とチップバーンとの関係は明確には見いだせなかった。高い再現性が得られなかった原因として、栽培を行ったグロースチャンバーが実験室内に設置されているものの、想定よりも外部の温湿度変化の影響を受けて、チャンバー内の湿度が一定に保持されにくかったことや、栄養処理において制限されるべき栄養素が意図せず混入した可能性が考えられた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、人工光型植物工場での養液栽培に使用される培養液中に栄養素として含まれる微量元素、特に重金属元素が、環境条件によっては他の栄養素の吸収を阻害する要因となること、あるいはストレス源になり得ることに着目し、それらの微量元素が、人工光型植物工場での葉菜類生産で特に問題とされるチップバーンの発生にどのような影響を及ぼしているか、検証することを目的としている。今年度は、まず、微量元素の濃度と他の環境要因について栽培条件を複数水準設定してレタス類を栽培し、それぞれの処理時にチップバーン発生がどのように変化するか明らかにすることを試みた。しかしながら、チップバーン発生の時期や程度について再現性が低く、その原因を追究するため、環境制御方法や栄養処理の方法を再検討した。この検討に時間を要したため、今年度予定していた栽培試験は一部の実施となった。高い再現性が得られなかった原因としては、使用したグロースチャンバー内の温湿度環境が想定以上に外気の影響を受けたことにより、湿度が一定に保持されにくかったことや、栄養処理時に制限されるべき栄養素が意図せず混入した可能性等が考えられた。これらのことから、加湿器の増設や、使用する器具の洗浄の徹底、植物への栄養処理方法の見直しなど、原因の解決を試み、解決の兆しが見えつつある。栽培試験を安定して行えるようになることで、試験回数を増やすことが可能となるため、今後の検証が進むと考えられることから、研究の遅れは回復可能な範囲内にあると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、微量元素の濃度と他の環境要因について栽培条件を複数水準設定してレタス類を栽培し、それぞれの処理時にチップバーン発生がどのように変化するか明らかにすることを試みた。しかし、チップバーンの発生時期や程度について、再現性が低く、今年度行った栽培試験の結果からは、着目した微量元素とチップバーン発生の関係について明確に判断することはできなかった。高い再現性が得られなかった原因として、使用したチャンバー内の湿度環境が不安定であったこと、意図せぬコンタミネーションが起きたこと等が考えられたが、加湿器の増設や使用する器具の洗浄の徹底、栄養処理の方法の見直しにより解決の兆しは見えつつある。今後は、微量元素の濃度と環境条件を変えながらレタス類を栽培し、着目した微量元素とチップバーンとの間にどのような関係があるのか、引き続き検証を進める。その中で特にチップバーン発生が起こりやすい、あるいは起こりにくい明確な条件を見出した場合は、植物体内の成分分析を行う等、より詳細な解析を行う。また、チップバーンに対する感受性は、レタスの品種によっても大きく異なるので、今年度使用していない品種について検証することも検討している。基本的には、チップバーン発生について慣行的な栽培条件と大きな差が観察された条件を優先して植物体の分析を行う予定であるが、チップバーン発生の程度が慣行的な栽培条件と同程度の場合であっても、誘導メカニズムの違いなど有用な知見を得られる可能性があるので、可能な限り植物体内の成分分析を行う予定である。
|
Causes of Carryover |
今年度は、微量元素の濃度と他の環境要因について栽培条件を複数水準設定してレタス類を栽培し、それらの処理がチップバーン発生にどのような影響を及ぼすか明らかにすることを目的として試験を行った。しかしながら、栽培試験の結果の再現性があまり高くなかったことから、その原因を追究するため、環境制御方法や植物への栄養処理の方法を再検討した。その結果、使用したチャンバー内の湿度環境が一定ではなかったこと、処理において制限されるべき栄養素のコンタミネーションが起きていた可能性があったこと等が原因として考えられた。この問題に対処するために時間を要し、今年度の実験の進捗がやや遅くなったことから、今年度予定されていた実験の一部が行われず、当初の予定よりも経費の使用額が少なくなった。次年度使用額となった分については、請求した次年度分の助成金と併せて、今年度行われなかった分を含めた栽培試験や植物の成分分析等の実験のために使用される予定である。また、論文投稿や学会発表についても次年度は精力的に行う予定であり、論文投稿料や英文校正費、旅費等、成果発表のためにも使用される予定である。
|