2023 Fiscal Year Research-status Report
妊娠関連リーシュマニア症マウスモデルの確立と免疫病態におけるマクロファージの役割
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23K14109
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
溝渕 悠代 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特任研究員 (70963461)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | リーシュマニア / 垂直感染 / 胎盤 / I型IFN |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度得られた結果は以下のとおりである。1) 母親Ld感染による妊娠率の低下: L. donovani (Ld) 感染は交配率と受胎率を下げることが明らかになった。交配後の経時的な膣栓陰性率は感染群で延長した。さらに、感染群では膣栓が確認されても妊娠に至る個体が少なく、受胎率が低いことも示された。2) 胎子へのLdの垂直感染: 次に、垂直感染を評価するために子の脾臓肝臓からPCRで原虫DNAの検出を試みたところ、103匹の子のうち72匹がPCR陽性(69.9%)であり、18匹の母親のうち12匹で垂直感染が起こっていた(66.6%)。さらに、胎子肝臓の免疫染色においてLd抗原陽性細胞が検出された。これは、マウスモデルにおけるVL垂直感染を組織学的に実証した最初の報告である。一方、予想に反して感染胎盤ではLd抗原陽性細胞は観察されなかったため、血中に遊離した原虫が経胎盤感染に寄与していると考えられる。3) 母親Ld感染によるT細胞浸潤性胎盤変性: 次に、HE染色による胎盤の病理学的解析を行ったところ、Ld感染胎盤ではラビリンスゾーン (LZ) の密度が低く、絨毛を構成する栄養膜細胞の萎縮及び血管拡張が観察された。さらに、免疫染色により感染胎盤のLZにおいてCD3陽性T細胞浸潤が認められた。4) 母親Ld感染による胎盤I型IFNシグナルの活性化: 最後に、胎盤のRNAseq解析を行ったところ、感染胎盤においてI型IFNシグナル及びその下流で誘導されるMHC Iシグナルの活性化に関わる遺伝子が促進していることが明らかになった。一方で、感染胎盤ではNFκB抑制、T細胞抑制、細胞性免疫抑制などのシグナルに関わる遺伝子も誘導されていた。本研究において特徴づけられた胎盤変性により、胎盤関門が脆弱になりそこから原虫が垂直感染している可能性がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度では内臓型リーシュマニア症(VL)の妊娠モデルを確立し母親及び胎子の病態評価を行う予定であったため、おおむね当初の計画通り研究が進行している。当VLモデルは症状が顕著になるまでに6~8ヶ月、その後妊娠・出産にさらに1ヶ月を要することから長期の実験系となるが、マウス感染実験のサイクルを定期的に回し効率性を高めることで対応した。妊娠感染症の系を立ち上げるのは申請者にとって初めての経験であったが、学会で知り合った他大学の先生方にアドバイスをお願いし、安定した交配・妊娠の維持と評価系の確立に至ることができた。また、マウス使用数が多く申請者一人で妊娠系を維持するのは難しいため、所属研究室室員と協力体制を築きながら研究を進めている。申請者は幼児二人の母親でありラボ滞在時間に制限があるけれども、このように周囲の研究者と協力することで研究を当初の計画通り進行できている点は評価に値すると自負している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、Ld感染母から生まれた子のフォローアップを行い、子の発育状態や病態変化及び免疫系の異常の有無を評価していく予定である。しかしながら、初年度の研究結果から感染が妊娠率を低下させることが明らかになり、かつ予備実験段階で感染母親の子食率も高いことから、効率的に子マウスを獲得・育成する方法を検討することが直近の課題である。子マウスの評価としては、① 低常時の発育状態、② Ld感染に対する抵抗性、③ PAMPsに対する自然免疫応答性、④ OVAに対する適応免疫応答性 等を評価する予定である。
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Causes of Carryover |
今年度の学会開催地が都内であったため、当初の計画と異なり旅費が計上されなかった。また、プラスチック製品用の費用も残額が出た。これらの残額は次年度の免疫学的解析用試薬に充てる計画である。
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Research Products
(1 results)