2023 Fiscal Year Research-status Report
ヘテロクロマチン、DNA修復、転写を担う核内非膜性構造体の相互作用の解明
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23K14124
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
磯部 真也 大阪大学, 大学院理学研究科, 助教 (50897147)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ヘテロクロマチン / DNA損傷応答 / 転写 / 非膜性核内構造体 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヘテロクロマチンでは、その凝縮した構造からDNA上でおこるイベントに関与する因子はそのままの状態ではDNAにアクセスできず、クロマチン構造の再編がイベント毎に行われている。これまでに、ヘテロクロマチン因子HP1の新規結合タンパク質として同定されたSCAIが、DNA二重鎖切断修復に関わることを報告してきた。その研究過程でSCAIが、DNA修復装置の構成要素である53BP1や転写装置のRNA Pol II のうち、高度にリン酸化されたものだけに結合していること、加えて、他の結合様式でヘテロクロマチン形成に関わるAHDC1と結合することを見出した。SCAIが結合するこれらの構成因子はそれぞれ自己集合活性を持ち、液-液相分離による非膜性構造体を形成することが示唆されていることから、SCAIはクロマチン構造やクロマチン上のイベントに関わる非膜性構造体をそれぞれ結びつけ、制御しているのではないかと着想した。 本年度の研究では、まず、SCAIのAHDC1、53BP1、RNA Pol IIとの結合変異体の作製を試みた。AlphaFold2による構造予測からSCAI との結合に重要と思われるアミノ酸に変異を導入することや、部分欠損変異体を作製したが結合が完全には欠失しない変異体か、発現しない変異体しか取得できなかった。そのため、次に、ヒト細胞、マウス細胞の両方でAHDC1ノックアウト細胞を作製し、AHDC1変異体として、HP1結合、SCAI結合、自己集合活性を欠失したものを確立し、AHDC1の側面から研究を進めようと修正を考えている。また、SCAIノックアウト細胞の作製や、CRISPR/Cas9によるヘテロクロマチン領域上に損傷を誘発させる系、近接ライゲーション法の導入は現在行なっており、またRNA-seq、ChIP-seq解析なども含めて今後の解析する系の目処が立った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画として、SCAIの変異体の作製を行い、SCAIノックアウト細胞でのリプレイス実験を行う予定であったが、AHDC1や53BP1、RNA pol IIと結合が予想される領域でのSCAI点変異体は、結合が完全には消失せず、また、部分欠損SCAIは発現しなくなるなどの理由から、現在、SCAI変異体の作製が思うように進捗できていない。そのため、まずは平行して進めていた研究として、AHDC1ノックアウト細胞の機能解析を行った。ヒトAHDC1ノックアウト細胞は放射線照射やDNAインカレーターとして働くドキソルビジンに対して感受性を示したことから、AHDC1はDNA損傷応答に関わることが示唆された。また一方で、マウスAHDC1ノックアウト細胞ではサブセントロメア領域のmajor satellite non-cording RNAの増加が見られることから、AHDC1はヘテロクロマチン領域の転写制御、もしくはクロマチンへのRNAの取り込みなどに関与している可能性が示唆された。そのため、AHDC1の解析から見えてきた、DNA損傷応答、転写制御やクロマチン制御への機能にSCAIとのリンクが重要か、またその関与ついてAHDC1の解析を介して深く掘り下げていくことを考えている。加えて、現在、SCAIノックアウト細胞を作製しており、また、AHDC1上のSCAI結合部位や、自己集合に必要な領域のみならず、ヘテロクロマチンやクロマチンリモデリング複合体との結合部位を同定している。これらの変異体のリプレイス細胞を樹立し、また、CRISPR/Cas9によるヘテロクロマチン領域上に損傷を誘発させる系の導入を行い、実際に損傷を誘発し観察することができた。これらの新しい実験系の導入なども含めて、今後の着目する表現型とその解析手段に目処が立ったため。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、AHDC1のSCAIとの結合や自己集合活性を消失した変異体、またはヘテロクロマチンやクロマチンリモデリング複合体とのリンクを欠損した変異体を野生型AHDC1と置換した細胞株をゲノム編集技術などによってそれぞれ樹立する。それらの細胞株を用いて、ヘテロクロマチン領域上にCas9で損傷を誘発させた場合に、DNA損傷応答にどのような影響が生じるのかをgH2AXや他の修復応答因子のDNA損傷部位へ集積の経時観察を行う。加えて、近接ライゲーション法により、ヘテロクロマチン近傍に集合している修復因子がAHDC1ノックアウトや結合変異体、もしくはSCAIノックアウトによってどのような変化が生じているかを解析し、AHDC1やその結合因子が、損傷応答のどのステップで働き、どのような影響を与えているかを明らかとする。 また、広汎な遺伝子発現への影響を調べるために、SCAIやAHDC1の機能不全による表現型を、RNA-seq や、ヒストン修飾のChIP-seqなどで評価することで、各因子の機能や相互作用がヘテロクロマチンと転写装置へのリンクに与える効果について解析する。加えて、リピート領域などのヘテロクロマチンをターゲットにdCas9-転写活性化ドメイン融合タンパク質によって強制的に転写させた際の制御や転写産物の動体について解析することで、SCAIやAHDC1がヘテロクロマチン上で起こる転写調節への関与していることを示す。 最後に、SCAIを介して、ヘテロクロマチンとDNA修復装置、転写装置が相互作用しているかを、近接ライゲーション法によって解析し、SCAIやAHDC1の機能不全による、それらのリンクに与える影響を調べることで、異なる非膜性構造体の相互作用の実態を示すことに挑戦する。
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Causes of Carryover |
消耗品購入のために予算を組んでいたが、大学の若手支援として100万円の助成金を獲得でき、その予算は年度内消化が必須であったため、本科研費で購入予定の消耗品購入分とし、大部分を次年度に繰り越すこととなった。それを踏まえ、下記の360万円の使用計画を今年度の予算としている。 【消耗品費】「試薬・酵素」 70万円: 遺伝子クローニング、シーケンシングにかかる費用 (1,000円x 200解析 =20万円) 、化学試薬、分子生物学・細胞生物学試薬、抗体として50万円を見込んだ。「核酸合成」30万: 合成オリゴ; (50円 x 6000塩基 =30万円)、「細胞培養試薬」 60万 : 培地、血清、抗生物質、トリプシンなどの費用として約60L分を算出した。「プラスチック機器」 50万 : 培養皿として (約200円x 1500枚 =30万円) と、ピペット、遠心管等 (約50円 x 2000 本 =10万円)、その他 (チップ、1.5 mLチューブなど)として10万円を算出した。【書籍・ソフトウェア購入費】書籍購入やサブスクリプト代として10万円を算出した。【国内旅費】 : 国内学会に参加3回分の参加費用、旅費を想定して20万円を算出した。【人件費】: 細胞株の樹立、NGSライブラリーの調整などを行う実験補助技官の方の給料半年分として120万円 (約20万円 x 6ヶ月) を算出した。
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[Journal Article] Dominant-negative variants in CBX1 cause a neurodevelopmental disorder2023
Author(s)
Kuroda Y, Iwata-Otsubo A, Dias K-R, Temple S. E. L., Nagao K., De Hayr L., Zhu Y., Isobe S-Y., Nishibuchi G., Fiordaliso S. K., et al.
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Journal Title
Genetics in Medicine
Volume: 25
Pages: 100861~100861
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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