2023 Fiscal Year Research-status Report
祖先的オートファジー始動メカニズムとその哺乳類・出芽酵母に至る進化過程の解明
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23K14140
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
濱 祐太郎 北海道大学, 遺伝子病制御研究所, 特別研究員(PD) (50970571)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | オートファジー / Atg1複合体 / 構造生物学 / 進化生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はオートファジーの始動に必須なAtg1複合体の進化的多様性に注目し、オートファジー始動メカニズムの進化過程を連続的に捉えることを目指している。まずは多様化の起点に相当する祖先的Atg1複合体について、それを持つモデル生物を用いて研究を行っている。出芽酵母でAtg1複合体の足場となる構成要素の相同遺伝子について、当該モデル生物の欠損株を作製し解析した結果、出芽酵母よりもこのタンパク質の生理的重要性が低いことがわかった。出芽酵母では、この足場タンパク質に別のタンパク質が結合することがオートファジー始動に重要である。祖先的Atg1複合体の足場タンパク質にも、その結合タンパク質のホモログが結合していることを免疫沈降により確認した。 次に足場タンパク質と結合タンパク質の複合体を構造予測すると、出芽酵母で既に知られている複合体とよく似た複合体構造が得られた。これに基づいて点変異体解析を行った結果、祖先的Atg1複合体は出芽酵母とは相互作用様式の一部が異なっていた。そのため、祖先的Atg1複合体は出芽酵母で知られているモデルでオートファジーを始動することは不可能であり、これが生理的重要性が低い要因であると考えられた。 出芽酵母型の足場タンパク質と結合タンパク質との相互作用の起源を配列解析と構造予測により探索した。その結果、出芽酵母を含む単系統群の特定の系統から出芽酵母型の相互作用、すなわちオートファジー始動メカニズムが生じたことが示唆された。 以上の成果は、出芽酵母型のオートファジー始動メカニズムの進化的起源に関する合理的な仮説を提供するものである。今後、この可能性を実験的に検証し、出芽酵母型メカニズムの起源に近い生物群の生活環を考察することで、進化的変遷の過程だけでなくその意義も説明できるかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初は、1年目は2つの足場タンパク質の欠損細胞を作製し、オートファジーの寄与を明らかにすることを目標としていた。これまでに、これらの欠損細胞の作製を終え、間接的証左であるが生理的重要性の解析を進めることができた。また、2つの足場タンパク質のうち片方については、出芽酵母の情報と高精度構造予測技術を活用し、相互作用部位の解析を終えることができた。これは2年目に計画していた内容であり、計画以上の進展と言える。 一方、当該足場タンパク質のオートファジーへの寄与については、直接的なデータが得られていない状況であり、新たなオートファジー評価法開発が必要である。これについても当初の計画にあったが、技術的問題から難航している。またIn vitro再構成系の構築についても、技術的問題のため当初の計画通りには構築できないことがわかった。これらの系については当初の計画より遅れている。 以上のように計画以上の進展がある一方で想定外の課題に直面している状況であるが、全体としてはおおむね順調に進展していると評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
現状では足場タンパク質群のオートファジー不全に関する直接的なデータが不足しているため、オートファジーの評価法の開発を優先する。加えて、In vitro再構成系の構築に必要な精製タンパク質の精製も技術的な問題に直面している状況であり、優先的に改善する。いずれも既にトラブルシューティングを開始している。 祖先的Atg1複合体の足場タンパク質をめぐる相互作用ネットワークおよびその構造については、出芽酵母や哺乳類の情報すら不足している部分も多い。また当該モデル生物においても、高精度構造予測技術も不可能な状態である。そのため、今後の解析は欠損変異体や点変異体の生化学的解析が不可欠である。現状ではそのための技術を確立しきれていないため、条件検討を行う必要がある。 また、祖先的Atg1複合体の細胞内での挙動を解析することも必要であり、イメージング技術が必要である。しかしながら、現在のところ外因性発現は技術的に不可能であり、免疫染色も上手くいかないことがわかっている。そこで、明るい蛍光タンパク質のノックイン細胞を検討する。イメージング技術が確立できたら、祖先的Atg1複合体の集積における遺伝学的階層性の解析を行う。
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Causes of Carryover |
購入希望の試薬あったが、国内在庫がなく発注時点で年度内納入が間に合わない見込みであり、また代替品も検討できない製品であったため、やむを得ず購入を次年度に見送った。その製品を購入する計画である。
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