2023 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムDNAの巨視的動態と遺伝子制御: 一分子DNA実時間観察によるアプローチ
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23K14159
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
西尾 天志 同志社大学, 研究開発推進機構, 嘱託研究員 (70964138)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 長鎖DNA一分子観察 / DNA高次構造 / 遺伝子発現活性 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリアミン(スペルミン)によって、遺伝子発現活性を様々に制御した条件下で、無細胞系遺伝子発現に対する抗がん剤ダウノマイシン(DM)の作用を調べた。その結果、低濃度DM存在下での弱い発現促進と、DM濃度依存的に引き起こされる発現の抑制という二相性の効果が観察された。さらに、原子間力顕微鏡により、ゲノムサイズDNAの高次構造に対するDMの作用を調べたところ、DM低濃度ではDNAの伸張を引き起こし、一方、高濃度ではスペルミンによって形成されたFlower-like structureを破壊することが明らかにした。DMが引き起こすDNA高次構造あるいは二本鎖切断によって遺伝子発現活性が影響を受けるという本研究成果は、従来の研究では知られることの無かった、DMのDNAへの直接的な作用を明らかにした新規性の高いものとなっている。 DNAの二本鎖切断は細胞内で最も毒性が強く、ゲノムの不安定化をもたらし、がんや細胞死を引き起こすことが知られている。本研究では、蛍光顕微鏡を用いた100キロ塩基対を超える長鎖DNAの溶液中一分子観察により、DNAの二本鎖切断をリアルタイムに観察し定量的に評価することを行った。その結果、コーヒー、お茶、ワインや野菜に多く含まれている天然ポリフェノールのクロロゲン酸が、数マイクロMレベルの低濃度でも二本鎖切断を抑制する、つまり、DNAに対して顕著な保護作用を示すことを見出した。さらに、一本鎖切断がDNA鎖に沿ってランダムに起こることによって、二本鎖切断が引き起こされるといった、切断のメカニズムを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
細胞内外の環境変化を想定し、ポリアミンの濃度変化によって長鎖DNAの高次構造を変化させた上で、実際に抗がん剤として使用されている、DMがDNAの高次構造と遺伝子発現活性にどのような影響を与えるのか検討を進めたところ、DMが引き起こすDNA高次構造あるいは二本鎖切断によって遺伝子発現活性が影響を受けるという、当初想定していた以上に興味深い結果が得られ、その究明を進めたため。また、DNAの高次構造や遺伝子発現活性に影響を及ぼすファクターの新たな候補を探索するための予備的実験を進める中で、クロロゲン酸がDNAの二本鎖切断に対して保護効果を示すという、想定外の興味深い現象を見出し、その究明を進めたため。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、上記以外にも、予備的な段階ではあるが、予想外に興味深い結果が多く得られた。そのため、今後の研究の推進方策として、これらの成果をより発展させ国際論文誌への投稿を進める。同時に、ヒストンたんぱくと長鎖DNAの複合体を作成しより発展的な研究を推進していく。
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Causes of Carryover |
所属研究室にて、使用試薬のストックが想定したより多く残っていたため。 次年度使用額は今後の研究計画遂行に必要な試薬、機器購入などに使用する予定である。また、今年度得られた研究成果発表のため、追加実験に必要な消耗品購入、論文投稿の投稿費、オープンアクセス費用、英文校閲費用、学会発表にかかる費用として使用する。
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