2023 Fiscal Year Research-status Report
飢餓時にみられるリボソーム関連遺伝子のヘテロクロマチン化機構
Project/Area Number |
23K14175
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平井 隼人 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (90938052)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | エピジェネティクス / ヘテロクロマチン / リボソーム / 分裂酵母 / 栄養飢餓 / rDNA |
Outline of Annual Research Achievements |
栄養の枯渇はすべての生物にとって死活問題であり、この過酷な環境をどのように乗り越えるかが生存の鍵となる。これまでの進化の過程で、生物は飢餓を乗り越えるため様々な手段を獲得してきた。特に、タンパク質合成装置であるリボソームは細胞内のエネルギーを大量に消費するため、飢餓時にリボソームの生合成を抑制して細胞内資源を節約することは生存にとって有効な手段の一つとなっている。
これまでに、分裂酵母細胞を飢餓状態にするとリボソームRNAが転写される遺伝子領域 (rDNA)にヘテロクロマチンが形成され、転写が抑制されることを明らかにしてきた。しかしながら、細胞が栄養の枯渇をどのように認識してrDNAのヘテロクロマチン化を引き起こすのか未解明であった。本研究では栄養シグナル伝達経路に着目し、飢餓条件的ヘテロクロマチン形成機構をより深いレベルで解明することを目指している。
初年度は、代表的な栄養シグナル伝達経路の一つであるTOR (Target of Rapamycin)キナーゼが、rDNAのヘテロクロマチン形成に寄与するかを調査した。具体的には2種類存在するTOR経路のうちTORC1経路の活性を、tor2温度感受性変異体を用いて低下させた。その結果、富栄養時にもかかわらずrDNAがヘテロクロマチン化されること、およびヘテロクロマチン形成に寄与する因子のrDNAへの局在パターンが変動することを見出した。さらにRNA-seq解析により、tor2変異体では一連のリボソーム関連遺伝子群の転写も減少することがわかった。これら遺伝子群にもヘテロクロマチンが形成されていたことから、TORC1が外部の栄養環境をモニターしながら、リボソーム関連遺伝子上のヘテロクロマチン形成を制御するという新しいモデルを提唱することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予備的実験によりTORC1キナーゼが制御する転写因子を特定出来ていたこともあり、rDNAのヘテロクロマチン化に至るまでの具体的なpathwayを早い段階で明らかにすることができた。また、公共のデータベースからtor2変異体のRNA-seqデータを取得することが出来たため、当初の研究計画よりも前倒しで発現変動解析が完了した。さらに、論文出版までのプロセスも想定よりも順調に進み、国際学術論文に研究結果を報告することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
2種類のTOR経路のうち、主にTORC1がリボソームの生合成を制御するというのが世界的な共通認識であるが、いくつかの知見によりTORC2の関与も示唆されている。今後はリボソーム関連遺伝子のヘテロクロマチン形成にTORC2が関与するのか着目して研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
野生型とtor2温度感受性変異体について、RNA-seq解析データをそれぞれn=3で取得する予定であったが、公共のデータベースに利用可能なデータが登録されていたため、そちらを利用した。ライブラリ調整に必要となる試薬やシーケンス委託費、関連する分子生物学試薬の購入費を次年度に繰越し、関連因子についての解析に使用する。
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